20代後半で自らの店「賛否両論」をオープンして以来ずっと、“予約のとれない料理店”という看板を維持しながら、料理界の第一線で勝負してきた笠原将弘さん。昨年発売された『笠原将弘の副菜の極み158』(扶桑社刊)は現在重版8刷りと大好評で、それに続く第二弾『笠原将弘の献立の極み70』(扶桑社刊)が最近発売されたばかり。忙しいながらもシングルで3人の子どもを育ててきた父親としての姿にスポットライトをあて、子どもたちとの関係や親としての思いをうかがいました。
すべての画像を見る(全3枚)料理に興味をもちだした息子。「盛りつけはまだ修業が必要かな(笑)」
――長女、次女は社会人、長男は大学生と、3人のお子さんたちも成長されましたね。最近、笠原家になにか変化はありましたか?
笠原:長女、次女とは変わらず同居をしていますが、長男は大学の寮を出てこの春からアパートでひとり暮らしを始めました。もうだれにも頼れない完全な自炊生活なので、けっこう本気で料理をしてるみたい。
たまに家族LINEに「今日はこれつくったよ」って、写真を送ってくるんですけど、それがもうほとんどパスタばっかりで。しかも、ちょっとだけ皿の縁が汚れてるんですよ。僕からしたら「どうせ写真撮るなら、皿くらいふいてくれよ」と思うんだけど、そこがまだ甘いんですよね。長男は僕の友人のイタリアンのシェフたちとSNSでつながっているので、けっこういろんなレシピを教えてもらってて、料理自体は本格的なんですよ。でも、盛りつけはまだまだ修業が必要かな(笑)。
――親の背中を見て育ってきたからか、やっぱり料理に興味があるんですね。
笠原:長男は大学が長い休みに入ると東京に帰ってくるので、「賛否両論」でバイトをさせてるんですよ。掃除、皿洗いのほか、店が忙しければホールを手伝ったりとか。まだまだ料理をする段階ではないけど、ひたすらソラマメの皮をむくとか、簡単な仕込みはやらせたりしています。
同世代のうちのスタッフたちにかわいがられながら、わいわい働くのが楽しいみたいですね。ずっとお姉ちゃん2人にもまれてきたから、同性の仲間ができたみたいでうれしいらしく、僕が知らないところでみんなとごはんを食べに行ったりもしているようです。
子どもたちに伝えたい、お金を稼ぐ大変さ
――息子さんは笠原さんに似ているんですか?
笠原:それが全然似てないんだよね。優しくてまじめで寡黙なところは、かみさん似かな。でも、動きは似てるらしくて、息子がバイトに来て僕と同じ調理用の白衣を着てると、若いスタッフがすれ違いざまに間違えて「マスター!」とか声かけちゃったりするんですよね。自分では似ていると思わないけど、他人から見ると似てるらしくて。親子って不思議ですね。
――バイトを通して息子さんに伝えたいことはありますか?
笠原:息子にはちゃんとバイト代を払っているので特別扱いはしませんし、ほかのバイトの人たちと同じように接しています。じつは、長女も次女も大学生の間はうちの店でバイトをしていたんです。子どもたちに「お金を稼ぐのは大変なんだよ」ということを教えるにはいい機会かなと思って。
うちの親父もよく言っていたんですよ。「1本100円の焼き鳥を売るのがどんだけ大変かわかるか?」って。だから、僕も子どもの頃から「1000円稼ぐ大変さ」を身に染みて育ちました。働くって学校とは違う人間関係が生まれるし、気遣いも必要だし、勉強になることが多いですよね。僕も焼き鳥店をやっていた両親の姿をそばで見て、「朝から晩まで大変だな」と思いながら育ちましたから。
でも、逆に「楽しそうだな」というところも見えてきましたね。自分でお店をやっていると好きなように店を切り盛りできるし、休みも勝手に決められるし。大変な部分と楽しい部分の両面を見ることができたから、「飲食業っておもしろいな」と感じるようになったんだと思います。