娘が46歳でがんで早逝。息子のおかげで、悲しみから立ち直る

多良さんには、もう一人、娘がいました。小さい頃から、障がいがある兄を理解し、「仕事をリタイアしたらここに戻ってきて、お兄ちゃんの面倒は私が看るね」と言ってくれていていたのです。でも、43歳のときに子宮がんを発症し、3年闘病の末、亡くなりました。

「最期は辛くて、涙が出ました。でも、そのあとは泣きませんでした。息子のときと同じで、闘病中に病気を受け入れて覚悟をしたら、元気が湧いてきました。これ以上はできないというくらい、娘と一緒にがんばりました。だから、後悔はありません」

今でもそばに、亡くなった娘がいるように感じています。「料理をしているとき、『味はどう?』と無言で問うと、「ちょっと辛いね」とか「おいしいよ」などと私の心へ答えてくれるような気がしています」

キッチン
「亡くなった娘が、今でもそばにいるような感覚がある」と多良さん
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大変なことを受け入れて覚悟を決め、その後は自分にとって最大限にできることをする。そんなふうに、乗り越えてきた多良さんは、81歳の今でも若々しく元気です。そんな多良さんを見て、周囲の同年代の友達から「どうしてそんなに元気なの?」と聞かれることがあるそうです。

「そんなときは、『息子がいるからじゃない? 貸しましょうか?』と答えるんです」と、多良さんは笑います。娘が亡くなったとき、こんなことがありました。息子は、状況が理解できないからいつも通りです。その姿を見て、「私がいないとこの子は生きていけない。元気を出さないと」ときり替えることができたのです。息子がいなかったら、きっと娘の死の悲しみに暮れていたはずです。

「息子を支えていると思っていたけど、逆に支えられています。『しっかりしないと!』と思う気持ちが、元気にしてくれます。私の元気は、気持ちが先で、体は後からついてくるのでしょう」