少子化が進む中において、中学受験に挑む子どもの数は増え、社会現象に。詰め込み教育や厳しすぎる競争に対してネガティブなイメージをもつ人も少なくありません。しかし、これらは誤解されて世に伝わっている面もあります。教育・学習ライターの小川晶子さんが、大手中学受験塾のSAPIX(サピックス)小学部に取材しました。

小川さんが取材して、低学年から試験当日まで、親ができるサポートと学年別のポイントをまとめた著書『SAPIX流 中学受験で伸びる子の自宅学習法』から一部抜粋、再構成してお届けします。

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中学受験は「かわいそう」?※写真はイメージです
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中学受験で求められる「考える力」とは?

今の入試問題では単純に知識を問われることは少なく、その場で複雑な問題文を読み取って、自分のもつ知識を使いながら考え、解答を導き出すものが主流です。

知識が問われる問題というのはたとえば、以下のような問題です。
・徳川家康が江戸に幕府を開いたのは何年のことか
・メダカが卵を産むのに適した水温は何度か
・面積が24平方センチメートルで、高さが6センチメートルの平行四辺形の底辺は何センチメートルですか
こちらは知識があれば答えは出せます。

また、「つるかめ算」や「和差算」といった算数の文章題も、単純なものであれば、その解法を知っていれば解答できます。

しかし、今の中学受験の、とくにレベルの高い学校では、それだけでは太刀打ちできません。基本的な知識を組み合わせることで、ぱっと見では解けないような問題が増えています。たとえば以下のようなもの。

例題

たとえば、図0–1の問題は、長方形の辺上を2点P、Qが動くとき、与えられた条件をもとに、2点P、Qが重なるのは今から何秒後かを求める「点の移動の問題」と呼ばれるものです。

初めて見る人には複雑に見えますが、これは「旅人算(たびびとざん)」と「平面図形」という基本的な問題を二つかけ合わせた問題です。こうした問題も、問題文から得られる情報をもとにして自分が知っている内容の中でなにとなにを組み合わせればいいのかを考えて、解いていく必要があります。

 

長い文章を読んで「考える」問題も増えている

ひらめき
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また、あるテーマに関する長い文章を読んで記述させる問題もあります。

2018年の麻布中学校の理科の入試問題では、地球の気象や地形、土星の気象や地形に関する文章を読ませながら、最後に

・電池がきれたカッシーニ(土星の探査機)を、土星に飛び込ませた理由としてふさわしくないもの

を選ぶ問題が出ました。

この問題はカッシーニについての知識を直接問う問題ではありません。それまでの文章を読むことで、その答えを“探す”ことができるようになっているのです。

こうした問題に対し、子どもたちは、自分がもっている知識や知っている解法、問題を解いた経験、そして今見ている問題の文章からわかること、などを総動員しながら、「どうしたら解けるのか」と考えて解いていきます。

つまり、ここで問われているのは「考える力」なのです。たとえ、知識を大量に詰め込んだとしても、自分で考えることができなければ解くことができません。

この考える力は、もちろん大人になっても使えるはずです。一生使える思考力は財産として残っていくでしょう。SAPIXをはじめとした中学受験塾でやっているのは、考えるおもしろさを体験させ、思考力を伸ばしていくことです。

 

本来、勉強はおもしろいもの。学ぶ楽しさ3つ

ドリル
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中学受験に対する批判として多く聞かれるのは「まだ小学生なのに勉強ばかりさせるなんてかわいそう」といったものです。

前提になっているのは「勉強はつらいもの、我慢してやるもの」という考えでしょう。たしかに、中学受験はハードです。時間と労力がかかることは間違いありません。入試問題は年々難しくなっており、身につけるべきことの多さは、中学受験をしない一般の小学生と比べて桁違いです。我慢して勉強していたら、それは苦痛以外の何物でもないでしょう。

しかし、勉強がおもしろいものだと思っていたら、大変な中でも楽しさがあります。
SAPIXによると、学ぶ楽しさには3つあるといいます。

1:成果が出る楽しさ(テストの点数がよくてうれしい! 今勉強していることには価値がある!)

テストでいい点数を取るなど目に見える成果が出ればうれしいですし、今、自分は価値のあることを学んでいるのだと感じられたら、前向きに学んでいこうという気持ちになります。自己肯定感も上がります。

2:知識欲が満たされる楽しさ(発見や、驚きが楽しい!)

知らなかったことを知り、「そうなんだ!」と驚いたり発見したりする楽しさです。 

3:精一杯頭を使う楽しさ(考えるのが楽しい!)

頭を使うことは、本来とても楽しくエキサイティングなことです。パズルやクイズが好きな子は、夢中になって考えること、脳に汗をかきながら考えること自体の楽しさがあるから熱中するのです。

実際、入試に出るのは「解きごたえのあるおもしろい問題」ばかり。先ほどお伝えしたように、入試問題は、知識だけではなく思考力をみることができるよう工夫されています。考えることが好きな子がチャレンジしたくなるような問題です。

今の中学受験は、「考えるのっておもしろい!」と思えることが重要なのです。中学受験を通じて、勉強をおもしろがり、思考力を伸ばしていくのだとしたら、それはとても価値のあることではないでしょうか。

勉強には、こうした楽しさがあるのにもかかわらず、大人のほうで「勉強は難しい」「自分は苦手である」と思ってしまうと、子ども自身も「勉強は難しいもの」「大変なもの」という意識がついてしまいます。

これはまったくもったいないことで、大人のほうでも、「勉強の楽しさ」を子どもに知ってもらえるよう意識を変えることが大事だと思います。