●コック服を着た男との奇妙な会話

コック服を着た男が、招待客に挨拶して回っている。よく見ると、インビテーションカードに描かれたイラストの男に顔が似ているではないか。かれはわたしのそばにやってくると、微笑みながら話しかけてきた。

「どうでしょうか。わたしの無重力スパゲッティは?」

「いや、こんな技術があるとは。知りませんでした」

「今日発表ですから、知らないでしょうね」

これは笑うタイミングなのかなと思い、わたしは声を出して笑った。そして、つぎのことばに困り、意味もなくレストランの壁に視線を移した。

さっきまでは気がつかなかったが、絵が飾られている。だが、インビテーションカードのイラストではない。なにやら古代ローマを思わせる石造りの神殿に、男性の胸像が並べられていて、それを縫うように植物が茂っている。

「この絵はいったい…?」

「これはピラネージという画家のものです」

「ほう、ピラネージ。まったくもって知りません」

「そうでしょうね」

男は微笑む。そして、わたしの胸もとを見てこう言った。

「ところで服がひどく汚れていますね」

「おや、気づきませんでした」

「申し訳ない。紙エプロンを渡すべきでした」

「いいんです。わたしは言われるまで気がつかなかった。もし、このまま帰っていたら、なにも気にせず洗濯機に入れて、いつも通り洗っていたでしょう。そして、なにも気づかずまた着ていたでしょう」

そのとき、はっとした。この汚れは、今日ついたものなのだろうか。それとも、以前スパゲッティを食べたときにつけたものなのだろうか。記憶があいまいだ。まるでUFOにさらわれたときのように。

わたしはめまいに襲われた。

ほかの招待客の胸もとを見ると、みんな汚れをつけている。それはいったいいつつけたものなのだろうか?

だれにもそのこたえはわからない。

【編集部より】

えーっと、いつ汚れがついたのかはわからないから気にする必要はないってことでしょうか。

汚れがついていたら着るときにだいたい気がつきますし、あたらしい汚れかどうかはそのときに見ればわかりますよね。

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