福岡県久留米市に、珍しいスパイス専門店があります。ドアを開けた瞬間、ふわーっとスパイスの香りに包みこまれて非日常の世界に。主宰するのは、80歳の吉山武子さん。そんな吉山さん、73歳でお店をオープン。ここに至るまでのことやスパイスカレーとの出会いについて伺いました。
すべての画像を見る(全5枚)80歳、スパイス屋さん「お店は私の生きがい」
73歳のときにこのお店をオープンし、80歳にして初著書『80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと』(KADOKAWA)を出版。そんな吉山さんに、年を重ねても新しい挑戦を続ける秘訣を伺います。
40歳のときに、「スパイス料理研究家」そして「スパイスブレンダー」として活動をスタートした吉山さん。今年で、活動を始めてちょうど40周年になります。
「それまでは、料理好きなただの主婦だったんですよ」と吉山さんは言います。
吉山さんの人生を変えるきっかけになったのは、「スパイスカレー」との出会いでした。
●「スパイスカレーを世の中に広めたい」という気持ちから、料理の道へ
久留米の老舗和菓子屋の長女として生まれた吉山さんは、23歳のときに自動車部品会社で働く夫と結婚。夫の仕事を手伝いながら、趣味で料理教室に通う日々を過ごしていました。
人とすぐ仲良くなる性格だった吉山さんは、40歳のときに出入りしていた料理教室で、「インドのスパイスカレー粉」の輸入販売を始めようとしている男性と出会います。
そのカレー粉を使ったスパイスカレーの講習会で、吉山さんは衝撃を受けました。
「まず、タマネギをクミンパウダーで炒められたのですが、豊かな香りがふわぁーっと部屋中に広がりました。今までかいだことのない香りです」
さらにできあがったカレーを試食して、なんともいえない奥深い味に驚いたといいます。刺激的だけれどきつい味ではない、むしろ優しい味で、コクがあってまろやか…。
「これまで食べていたカレーとは全然違う!」
その後調べていくうちに、スパイスは体にいいものだということも知り、スパイスカレーをぜひ世の中に広めたいと思うようになりました。
●主婦が開く「移動料理教室」があちこちで話題に
あちこちのカレー教室に参加したり、書籍を読んだりしてスパイスの研究をした吉山さんは、やがて独り立ちして自分の料理教室を主宰するようになります。「教えてほしい」という依頼があればどこへでも出かけていき、代表の方の自宅で教室を開く「移動料理教室」というスタイルです。
目指していたのは、「スパイスを使った、簡単な家庭料理」。スパイスを買って帰ってもらい、家庭でつくってもらいたいというのが、教室を開くいちばんの目的でした。
「私はただの主婦ですし、教室といっても趣味の延長のようなものでした。だから初めのころは、参加費はひとり500円。スパイスだけは私が持参するけれど、材料もあらかじめ用意しておいていただいていました」
この移動料理教室は、子どもが小さくて今まで料理教室に通えなかったお母さんたちに、とくに喜ばれたといいます。
「当時は、『スパイスって薬のようなものじゃないか』という偏見があったり、欧風カレーと違ってサラサラしているから『こんなのカレーじゃない』と言われたりしました。でも、だんだんとおいしさがわかってもらえるようになり、『カレーなのに胃もたれしない』と喜ばれるようになったんです」