同じ面積でも変形敷地は比較的に安く購入しやすい傾向に。なかでも注目したいのが、都市部の便利な場所にも多く存在する旗竿敷地(道路に接する幅が2m+αで奥に進むと旗のような広がった部分がある土地)。「隣家に囲まれ暗い、風通しが悪い…。不安に思う人もいるでしょう。しかし、道路の音や通行人の視線を気にしないですむなど、メリットも大きいんです」と語るのは、一級建築士の石川淳さん。自身が手がけた3件を例に、旗竿敷地での家づくり成功のポイントを教えてくれました。
すべての画像を見る(全27枚)実例1:土地代の差額で地下を実現!階段から光が降り注ぐ明るい間取りに
家族構成:夫婦(完成数年後に双子の子ども出産)
間取り:地下 多目的室(のちに子ども部屋) 1階 寝室 、サニタリー、子ども部屋 2階 LDK
上の写真は、道路側から見た外観です。竿の部分(間口)はわずか2.5m。奥の旗の部分にあたる、長方形部分の面積は54㎡しかなく、隣地の離れ寸法を取ると、12坪程度の建築面積しか取れない敷地です。
そこで、通常では使うことの少ない竿地部分も、玄関として使うことに。結果、建ぺい率上限の50%ギリギリの49%まで使いきっています。
さらに地下室の容積緩和(地下室の容積は、延床面積の3分の1を上限として計算されないという規定)を使用して、許容の容積率を超えた延べ床面積を獲得しています。
地下室は、ほかより安かった旗竿敷地を購入した土地代の差額分を、地下工事にあてることで実現しました。このことも、大満足の家づくりができたポイントです。
玄関ドアを入るといきなり階段があり2階リビングへ。玄関部分には、靴入れなどの収納を壁面におさめて、スッキリした空間にしています。
上部にある白い棒状の物は耐震のための筋交いで、天井付近につけることでジャマにならず、デザインの一部になっています。
玄関ドアの上は大きな窓をつくり、貴重な自然光を取り入れています。窓の向こうは竿の部分、そして道路と続くので、日差しをさえぎるものはありません。隣家に囲まれた旗竿敷地ですが、隣家が気にならないことも大きなメリットになっています。
LDKは自然光の取りやすい2階につくりました。
縦長スリット開口のある壁側が南方向ですが、壁の向こう側には1階の個室へ下りる階段があります。このリビングと階段の間に壁を設けて、壁の縦スリット穴からも日が降り注ぎます。
階段越しの外壁に窓があるので、リビングとも適度な距離感が取れていて、隣家の窓は気になりません。さらに天窓からの光も取り入れ、明るい空間に。
気がつかれた方も多いと思いますが、この家には2つの階段があります。一見すると狭い面積に階段が2つもあってムダに感じるかもしれません。しかし、階段が2つあることで1階の子ども部屋や地下の部屋へ行くのに、かならず2階リビングを通り抜ける動線ができました。
また、階段の部分は、上部から光を落とすのに好条件。あえて南に階段を置き、透明床を敷くことで、地下まで自然光を導いてくれます。
一般住宅の寝室は、玄関脇の落ち着かない廊下に面して設けられることが多いですが、ここでは2つ目の階段を下りた場所に。プライベートエリアとして階を分けた1階にあります。
じつは完成後にお子さんが生まれましたが、想定外の双子ちゃんでした。そのため、1階に用意した子ども部屋ではなく、予備室として広めにつくった地下室を2つに分けて子ども部屋にすることに。
土地が安く、地下室をつくる建築費があったことで、満足度の高い間取りが実現できたのです。
実例2:白い壁とインナーバルコニーで、空と緑を身近に感じられる家
家族構成:夫婦(完成後に子ども出産予定)
間取り: 1階 寝室、サニタリー、子ども部屋 2階 LDK
敷地は間口2mで旗竿敷地の先には都内では比較的広い敷地が広がっていました。
建ぺい率いっぱいに建てても周囲に余裕が生まれる敷地。そこで隣地境界沿いに白い壁を建て、その内側を中庭のようにして個室の窓を大きく取ることができました。
主寝室には全開にできるタイプの窓を採用。外の白壁の向こうは隣家の庭ですが、まったく気になりません。
また、玄関ホールの突き当りの壁には縦長窓をあけ、その先にも隣地境界に白壁を建てて、内側に植栽して、閉鎖感がないようにしています。
こちらは浴室の様子です。外部には坪庭をつくり、上部には目隠しのルーバーをつけています。自然光が入り、気持ちのよい空間になりました。
2階のリビングには窓を全開できるインナーバルコニー(写真奥)があります。室内のようなバルコニーにはガーデン家具を置いています。
また、天窓から入る南向きの光が天井スリットから取り入れられる仕掛けになっていて、季節や天候によって変化する光を楽しむことができます。