●義兄のアドバイス…義両親へ筋を通す

女性後ろ姿
すべての画像を見る(全4枚)

それにしても、偽装離婚後は私を社長にして、これまでと同じ仕事をするつもりだなんて…。風俗で自己破産したくせに、夫はまだ地道に働くつもりがないのです。自己破産したら夫は新しい会社をつくることはできません。それで私の名前で新しい会社をつくって、また私だけを働かせて、お金は好き勝手に使うつもりだったのでしょう。仮に銀行から借り入れをしたら、次は私が借金を背負い込むことになります。冗談じゃありません。

私は気持ちを落ち着かせながら、離婚届を取りに区役所に向かいました。体がフワフワして、よく知っている街が、知らない街のように見えます。運転に集中しなくては! ここで事故でも起こしたら、元も子もありません…。

私は区役所で離婚届を入手すると、家を出る準備を始めました。事務所と自宅で私が使っていたパソコンから必要なデータをコピーして、不要なデータや検索履歴を消去します。それからパソコンのパスワードも変え、夫が簡単には起動できなくしました。最後に荷物の準備です。必要最低限のものだけ入れたら、もうバッグがパンパンです。これだけで、気づいたら深夜になっていました。

私はここで再び義兄にラインをして、明日離婚届を提出し、そのまま家を出ると報告しました。義兄からは「義両親に家を出る前に挨拶し、経緯を話すべきだ」と返信がありました。私にとってはハードルが高いなぁと思いましたが、義兄は「絶対すべき」だと譲りません。私はしぶしぶ承諾しました。人として筋をとおしておくことが、こういうときは大事だと義兄は言いました。

●自己破産前に離婚届けを出したかったその理由

さらに翌日、私は朝から夫の病院に行くと、昨日と同様スマホの録音ボタンを押してから病室に入りました。夫に「離婚届取ってきたよ。ここに名前を書いて」と言ってペンを出し、考える間を与えずに名前を書かせました。それから私は、「自己破産する前に離婚した方がいいみたい」と、ネットの情報を見せながら、夫に説明しました。

「離婚してから自己破産した方がいいみたいよ。離婚届をこのあと出してくる」
「そうなんだ。じゃあよろしく」

黙って離婚届を出すこともできましたが、それをすると後から「離婚には同意したが、届けを出すことには同意していない」として、離婚の無効を申し立てられる可能性がありました。そのため私が離婚届を出しに行くことを、夫も了解していることを示す音声を録音したかったのです。

私は夫に別れを告げると、区役所に向かいました。離婚届を提出し受理されるまで待ちます。すると夫から電話です。迷ったものの怪しまれても困るので電話に出ると、夫が早口で話し始めました。

「離婚届けもう出しちゃった? 調べたら、自己破産後に離婚した方がいいみたい」
「ううん、出してない。まだだよ」
「よかった。じゃあまだ出さないで」
「わかった。それじゃあこれは家に置いておく。じゃあ、あとでね」

私はとっさに嘘をつきました。じつはネットで自己破産と偽装離婚について調べると、離婚してから自己破産しろというものと、自己破産してから離婚しろという相反する2種類の解説が出てきます。調べていくと、「自己破産→離婚」の記事のほうが数が多いのです。でもその順番で進めると、いつ離婚できるかわかりませんし、私は夫が入院している間に家を出ようと思っていました。この時の私は長年モラハラを受けてきたせいで、「夫に見つかったらなにをされるかわからない」と本気で怯えていたのです。

そのため私はあえて「離婚→自己破産」の解説を見せ、今日提出することに同意するよう夫を誘導し音声を録音していたのです。とにかく一刻も早く逃げ出したい! …私にはそれ以外のことは考えられなくなっていました。