高齢化が進む日本。身辺を整理し、自分の死後に備える「終活」がブームになっていますが、たいていの人にとって「死」とは突然やってくるもの。

「身近な人の死で動転しながらお葬式を行い、そこで初めて遺産分与が問題になることもあります」というのは、葬儀関連サービス企業でPRを務める高田綾佳さん。
今回は、葬儀の現場でよく聞かれる声をもとに、由美さん(仮名)という人物を例にして、遺産分与に絡むありがちなお葬式トラブルと、その対策ポイントを語ってもらいました。

相続
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親のお金を当てにしていたら、口座が凍結!葬儀代の支払いに困り果て…

由美さんは、40代の会社員で、自営業をリタイアした70代の父、専業主婦で同じく70代の母とともに東京都内に在住。
長く実家暮らしをしているためお金の心配をする機会は少なく、貯金よりも趣味にお金を投じるタイプです。

ある日、父が外出先のゴルフ場で心筋梗塞を起こして他界。由美さんは突然のことに動揺しましたが、生前顔の広かった父のために立派な葬儀をあげることに。
病院で紹介された葬儀社に見積もりをお願いすると、100人ほど参列できるホールで行う、300万円のお葬式プランを提案されました。
少し高い気もしましたが「父の遺産でなんとかなるだろう」と考え、葬儀社に手配を依頼しました。

●父親の銀行口座が凍結され、お金が引き出せない

父親の銀行口座が凍結され、お金が引き出せない

しかし、父の銀行口座の預金残高を確認しようとしたところ、現金をもたない主義だった父の財布から出てくるのはクレジットカードばかり。
ようやく1枚だけキャッシュカードを見つけ、銀行に父の死亡を伝えて引き出しをしたい旨を伝えたところ、返ってきた答えはなんと口座の凍結。

由美さんは、「相続手続きが完了して預金の権利をもつ相続人が確定するまで、銀行口座からの引き出しが停止される」場合が多いことを知らなかったのです。

しかし、葬儀社からは「葬儀の翌日にはすべての支払いを現金で済ませてほしい」と言われています。その葬儀社は現金払いのみ対応で、クレジットカードやローン払いなどの手段はありません。
大きな式にすると決めて依頼している以上、いまさら「お金を工面できず、払えない」とは言い出しにくい状況。

●葬儀代は現金払いのみ!やむなくそりの合わない弟を頼ったけれど…

そこで由美さんと母は、独立して暮らしている由美さんの弟に支払いをお願いしました。
由美さんと弟は昔からそりが合わず、頼りたい相手ではありませんでしたが、そうも言っていられません。

弟は専業主婦の妻と幼い子どもがいて生活が豊かとはいえず、「お金がないなら見栄を張らず小規模にしたら?」と、突然降ってわいた高額な支払いになかなか納得しません。
しかし母の懇願に長男としての責任を感じたのか、参列者からのお香典を全額受け取ることを条件に、葬儀代金を支払うことになりました。

●葬儀代を払う代わりに保険金と預貯金を!弟は裁判も辞さない考え

葬儀代を払う代わりに保険金と預貯金を!弟は裁判も辞さない考え

なんとか予定どおりのお葬式をあげてひと段落した数日後、由美さんのもとに弟から電話がかかってきました。
「意外と参列者が少なかったので、お香典では葬儀代金がまかなえず、多額の赤字が出ている。うちは生活が苦しいので、実家は母さんと姉さんのものでいいから、生命保険と預金は全部自分のものにしたい」と言い出したのです。

今まで父の財産で悠々と暮らしていた由美さんと母の代わりに、独立して金銭的に余裕がない自分が葬儀代を負担させられたことを理不尽に思い、大きな憤りを感じているようです。

弟の言い分は理解できる一方、由美さんとしては「母の老後を看るのは自分だ」という思いもあり、預貯金を丸々渡すわけにはいきません。
由美さんは弟に家計の事情を説明しましたが、「実家暮らしなのに貯金をしていない姉さんが悪い」とまったく引かず、口論になってしまいました。

最終的には、家族の縁をきったうえで弁護士を立てて裁判するとまで言い始めたのです。

父の遺言状は見つからず、故人の遺志はわかりません。ただ、家族間で裁判になるような事態を望んでいなかったのは確かです。
父の他界をきっかけに、家族関係も生活基盤も一気に壊れてしまい、由美さんは深い悲しみに暮れています。

遺産相続トラブルを防ぐには「葬儀に関わる人とよく話すこと」!

由美さんのお話、いかがだったでしょうか。
お葬式は急いで決めなければならない事柄が多く、初めて経験する方にとっては難しい判断を次々と迫られます。
一方で、急なお葬式に対処しようとした結果、遺族同士や周囲の間で対話が不足してしまい、トラブルに発展するケースはよく見られます。

由美さんのケースでは3つのポイントがあります。

1. 手持ちのお金や葬儀代金の支払い方法を考慮せずに、高額な葬儀を依頼した
2. 葬儀に関わる人に相談せず。葬儀内容を決定してしまった
3. 故人の遺志がわからない状態で、遺産の分割方法でもめてしまった

これらは初めてのお葬式の際に見落としがちなポイントで、由美さんを一概に責められるものではありません。
ただ一方で、今回のケースのように参列者の多い葬儀を行うことが予期される場合、以下のような準備をしておくと平穏にお葬式があげられたかもしれません。

●ポイント1 葬儀費用の用意の仕方を事前に考えておく

葬儀社はカード決済やローン払いによる葬儀費用の支払いに対応していないケースが多く、大金の一括払いを求められる場合も。
しかし、相続財産の処分は原則的に相続人を確定させてから行うべきもので、故人名義の銀行口座の預金を葬儀費用の当てにするのは望ましくありません(葬儀を理由とした現金の引き出しが相談可能な金融機関も一部あります)。

そのうえでの対策としては、事前に葬儀費用を口座から引き出しておくか、葬儀の生前予約をしておくというふたつのパターンがあります。

前者の場合は、まず本人に許可を取って葬儀費用を引き出し、証拠を書面に残しておくことが重要です。
死去からさかのぼって3年以内であれば、当該のお金は相続資産として取り扱われますが、葬儀費用は基本的に相続税がかかりません(一部除く)。
そのため、税金の心配なく事前に葬儀費用を用意できます。

後者は、葬儀費用を事前に支払っておくサービスのことで、葬儀社や互助会によってさまざまなプランが提供されています。

●ポイント2 葬儀を選択するときにはよく検討し、関係する人に相談しよう

お葬式をあげる際、プランを決めるポイントになるのは、参列者の数、プランの日程、祭壇や会葬返礼品等のグレードの3つ。
故人の人となりや友人関係、遺族が準備できるお金について、周囲によく相談したうえで葬儀を選択しましょう。

最近は通夜を省いた「一日葬」、通夜・告別式を省いた「火葬式」といった新たな葬儀の形式や、インターネットで申し込める定額の葬儀プランも登場しています。

●ポイント3 遺産の要望を確認しておこう

相続は一度トラブルになってしまうと、たとえ少額でも訴訟に発展するケースが多くなります。
ですが、遺産の分与方法をあらかじめ記しておくことで、トラブルの数を大きく減らすことも可能。

故人の遺志を明確に示すには、情報共有のための「エンディングノート」に加え、「遺言書」を書いておくことが大きな対策となりますので、家族で話題にしてみましょう。
エンディングノートには法的な力はありませんのでご注意を。

だれもが納得できる最期を迎えるためには、周囲の家族との十分な話し合いが不可欠です。
急なお別れの際に困らないよう、少しずつ準備してみてはいかがでしょうか。