怒り、不安、悲しみ、嫉妬などのネガティブな感情はなぜ生まれてくるのか? そうした感情に押しつぶされることなく、タフに、そしてポジティブに生きていくにはどうしたらよいのか? 脳科学者の柿木隆介さんに、3人のESSE読者が日頃の悩みをぶつけました。さて、先生が導き出した解消方法とは…。

座談会の模様
座談会の模様

【悩みを抱えたみなさん】

・東原奈緒子さん(仮名・41歳)

夫(42歳)、長女(6歳)、二女(4歳)の4人家族。断れない性格のためPTAの役職につくことになり不安。義母とも折り合いが悪い。「できる友達に嫉妬。劣等感をなんとかしたい」

・山口愛実さん(仮名・36歳)

夫(41歳)、長女(9歳)、二女(4歳)とともに夫の実家の近所に住む。留守中に、義母が合鍵を使って家に入ってくるのが悩み。「留守中に合鍵で入り込む義母にイライラする!」

・小川ゆりかさん(仮名・30歳)

夫(37歳)、長女(2歳)の3人家族。夫の家事の仕方に不満がたまっている。娘の幼稚園入園をきっかけに、ママ友づき合いにも不安が。「言われないとなにも動かない夫に不満が爆発しそう!」

<脳科学者×ESSE読者座談会>ネガティブな感情の上手な受けとめ方とは?

先生:

怒りや嫉妬、劣等感など、自分のなかのネガティブな感情といかにつき合うか、今日は皆さんと考えていきたいと思います。まずは、目下の悩みについて教えてください。

東原:

義母が悩みの種です。とにかく大人げなくて、先日なんか生意気盛りの6歳の娘の態度が気にいらないと言いだして、娘を実家に出入り禁止にしたんです。カーッときましたが、ケンカをしたら夫が気の毒なので、かろうじて怒りをのみ込みました。義母には、しょっちゅうイライラさせられているんです。

先生:

ぶつけるわけにはいかないのがつらいところですね。まず脳の中でなにが起こっているのか。怒り、不安、恐怖など本能的な感情を抱いたときに活発に活動するのが、脳の深いところにある「大脳辺縁系」と呼ばれる部位。一方こういった感情を抑え、理性的な判断や思考をつかさどるのが脳の表面部分の「大脳新皮質」にある「前頭葉」。ところが、この前頭葉は、反応するのに3~5秒ほどの時間がかかる。つまり、「カッとする」「イラッとする」「ムカつく」といった瞬間的な怒りは、前頭葉が働きだす前に、本能のままに大脳辺縁系が暴れている状態です。

東原:

では、その5秒をやり過ごせばいいのですか?

先生:

そうです。深呼吸を何回かすれば5、6秒たちますね。そのうちに前頭葉が働きだします。

小川:

あの、5、6秒で収まらないときの次の一手ってないですか? 私はせっかちなせいか、一度腹が立つともう止められなくて。

先生:

その場所を離れるといいですよ。トイレに行けば数分間稼げます。窓の外の景色を見る、立ち上がるなど、なにかほかのことをやるのもいい。

動かない男にイライラするなら、まずほめること!脳の報酬系が働きドーパミンを放出してやる気に!

山口:

積もり積もった怒りのときはどうしたらいいのでしょう?じつは、義母が家にだれもいないときに、合鍵を使って平気で上がり込んでくるんです。他人の家だという感覚がないみたい。帰宅したときに、義母が家に入った痕跡を見つけては、「ああ、また来たんだ」とふつふつと怒りが込み上げてくる。その繰り返しです。

先生:

不快な気持ちが長く続くときは、紙に書き出すことをおすすめします。なにが起こったのか、そのとき自分はどう思ったか、相手はどう思っていると考えられるのか。冷静にできる限り客観的に分析しながら書き出しましょう。

山口:

書くことでなにが変わるのですか?

先生:

脳科学的に説明しましょう。これをやると、まず、考えるために前頭葉が活性化します。考えを文字にするときに働くのは言語野、手の動きを制御するのは運動野と小脳。いずれも、理性的に働く大脳新皮質にあり、本能的な感情を生む大脳辺縁系には関与しません。つまり、書いているうちに本能が自然に抑制されるのです。

小川:

怒りとはちょっと違うのですが、夫は家事も子育ても私から言わないとやってくれません。私は言わなくても自発的にやってほしい。多くを期待しすぎなのかもしれませんが、どうしてこの人はわかってくれないんだろうと寂しい気持ちになります。

先生:

「言われる前にやってよ」と言いたくなるかもしれませんが、それは逆効果。夫としては、たとえ言われてからやるのであれ、「家事をやっているオレはえらい」と思いたいのです。ほめられてもいいはずなのに、どうして文句を言われなくてはならないんだ、ということになる。

東原:

ああ、それわかります。うちの夫も、ちょっと子どもを遊びに連れ出したぐらいで、「オレはイクメンだ」くらいのことを平気で言いますからね(笑)。

先生:

ほめてもらいたいんですよ。「あなたすごい」とか「手伝ってくれるからホント助かる」などと、たくさんほめてあげてください。そうすると気持ちがよくなって、次もやろうという気持ちになります。

山口:

友人に、ダンナさんのやることなすことにいちいち「ありがとう」「うれしい」と言う人がいますが、あれはやるように仕向ける手なのですね。

先生:

効果は絶大です。ほめられれば、だれだっていい気持ちになりますよね。快感を覚えると、脳の中の「報酬系」と呼ばれる部位が活動して、気分がよくなる「幸福ホルモン」の一種のドーパミンが脳内にたくさん放出されます。ドーパミンが出れば、さらに気持ちがよくなって、もっとほめられたくなる。これがいわゆる「やる気」になっている状態です。男を動かすにはいちばんですよ。

小川:

なるほど。文句を言うよりほめる方が、こちらも気持ちがいいですよね。やってみます。

自分が好きなことをして不安から逃れるのも手

東原:

私は自分の劣等感をなんとかしたいです。来年度のPTA会長を、断りきれずに引き受けてしまったのですが、人の上に立つことが、もともと苦手なので不安でたまりません。前会長が上手にみんなをまとめてリーダーシップを発揮しているのを見ると、嫉妬みたいなものを感じてしまいます。

先生:

人をねたんでしまうのは、怒りや不安などと同じように大脳辺縁系で起きる本能に近い感情です。だから、他人と自分を比べて、劣等感にさいなまれるのは仕方のないことですよ。ただ、その気持ちにのみ込まれないように気をつけることはできる。嫉妬している自分を感じたら、前頭葉を意識的に働かせて、「自分は本能に支配されかかっているんだ」と、事実を客観的に受けとめ、周りに必要以上に振り回されないようにしましょう。

山口:

東原さんが今おっしゃっていた不安感、よくわかります。苦手なことをやらなくてはならないとき、うまくいかないのではとひるんでしまい、その結果不安に。逃れる方法はありますか?

先生:

単純作業に没頭してみましょう。掃除をする、編み物をする、野菜を切り刻む、パズルを解く…。なんでもかまいませんが、なるべく自分の好きなものを選んでやってみましょう。これらはいずれも前頭葉を活性化するうえ、単純作業なので、長時間ひとつのことに意識を集中させることにつながります。これこそが、不安を忘れる最高の条件なのです。また、ウォーキングなどの運動をする、ゆっくりお風呂に入る、歯をみがくなども同様の効果があります。

小川:

私は過去に、被害妄想、不幸自慢の激しいママ友に悪口を言いふらされるという経験をしました。人間としてどうなの?という人なのですが、子ども同士の仲がいいこともあり、つき合っていくしかありません。それが苦痛で気がめいってしまいます。

先生:

心が痛むときに活動する脳の部位は、肉体的な痛みを与えられたときに活動する部位と同じ。つまりショックな出来事に遭遇すると、体と同じように心が痛めつけられるのです。そのママ友と縁をきることができないにせよ、心を癒すことは必要です。一度思いきり涙を流してしまうのもいいのではないでしょうか。涙と一緒に、ストレスによって体内に生まれた有害物質と、ストレスを緩和させる物質が流れ出て、スッキリするはずです。

小川:

映画を観て感動の涙を流すことも脳にはよいのですか?

先生:

基本的には一緒です。このように脳の仕組みを知れば、理にかなった方法で悩みから抜け出せるのです。毎日できる、ちょっとしたことばかりなので、ぜひ取り入れてみてくださいね。

悩める3人が、柿木隆介先生のアドバイスを1か月実践してみた結果は?

 柿木先生からの具体的なアドバイスを受けて、なにがどう変わったのでしょうか? 1か月たって変化したことを報告してもらいました。

「突発的な『イラッ』を収めることが可能に」(東原さん)

子どもにカッとなったとき、怒りたい気持ちをぐっとのみ込んでトイレに行くようにしたら、感情的に叱ることがなくなり、怒る回数も減りました。不安なときは、大好きな編み物に黙々と没頭して、しのいでいます。

「ほめることで夫のやる気をコントロール」(小川さん)

夫をやる気にさせたいならほめることが重要、というアドバイスに従い、夫が食器を下げるたびに「ありがとう」「助かる」を連発していたら、最近は自分から「オレがやっておくよ」と言ってくれるようになり、変化に驚いています。

「泣ける映画を観てストレスを発散」(山口さん)

年末年始は子どもが一日じゅう家にいるので忙しく、私もストレスがたまってキリキリしていました。そこで泣けると評判の『火垂るの墓』のDVDを借りて観賞。盛大に泣いたら、そのあとは気分がスッキリし、冷静になれました。