11月に入りだんだんと冷え込んできましたね。天気予報の最低気温を見て、ついいっぱい着込んでしまって歩くうちにコートの中は汗だくに…という方も多いのではないでしょうか? しかし冬の寒さの中で顔や脇などから汗が吹き出す場合、それはもしかしたら身体からの危険信号かもしれません。今回は心配のない汗と危険な汗の見分け方や、病気によって引き起こるさまざまな多汗についてヒロクリニック心療内科の佐々木真由さんにお話を伺いました。
すべての画像を見る(全4枚)冬なのに顔汗と脇汗が止まらない!?
私たちの身体は生命を守るために無意識のうちに働き、調節を行う機能が備わっています。「汗」もその中のひとつとなり、運動や高気温などにより、上がりすぎた身体の熱を冷ます打ち水のような役割があります。
しかし、震えるような寒さのなか、もしくは快適な温度の環境下にも関わらず、顔汗や大量の脇汗が流れてくる・止まらない、といった症状がある場合は要注意です。
●健康的な汗と危険な汗の違いとは?
ーー汗はかけばかくほど健康や肌に良いイメージがあります。また私自身、かなりの汗かき体質で冬でもちょっと歩くと、コートの下は汗だくといった状態になりますが、これも危険な汗になるのでしょうか?
「激しい運動や高気温により身体がオーバーヒート状態になると、脳や内臓に大きなダメージを受けます。それを防ぐためにヒトの身体は汗をかき、汗の蒸発によって熱を冷ますのです。これを「温熱性発汗」といい、私たちの身体に備わった機能となります。歩いている間に汗ばむことや、電車や室内についた瞬間に汗が吹き出す場合は温熱性発汗となり、誰にでも起こる現象で問題はないでしょう。でも外気が低い中、身体を動かしていないのに大量の汗をかく、または快適な室温のはずなのに、いつまでも汗が止まらないようであれば注意が必要です」
ーー私の場合、背中がかなり汗ばみます。服の裏地が肌に張りつくほど汗が出るのですが、たしかに気づくと汗は引いていますね。
「それであれば、まず問題のない汗といえるでしょう。健康な方であれば誰でも経験する汗です。注意が必要なのは顔や脇、手足など局所的に大量の汗が止まらないケースとなります。これらの汗は強いストレスや何らかの病気が引き起こしている可能性が大いにあるのです」
●止まらない汗は身体の危険信号かも
ーー危険な汗を引き起こす病気にはどのようなものがありますか?
「最も多いのが自律神経失調症です。自律神経とは無意識下に心臓や呼吸、体温調節などを行う神経のことをいいます。交感神経(緊張)と副交感神経(リラックス)の2つの神経がバランスをとりながら身体機能をコントロールしています。仕事中には交感神経の働きにより活発になり、睡眠時には副交感神経によってリラックスするのですが、強いストレスなどによってこの働きが乱れてしまうことを自律神経失調症といいます。
自律神経は身体中の器官を支配するため、自律神経失調症を放置するとさまざまな症状があらわれます。中でも快適な環境下で顔や脇・手のひら、足の裏に汗を大量にかく多汗症状は、自律神経失調症に多くみられる症状ですよ。これは交感神経が優位となり、常に緊張した状態です。身体に大きな負荷がかかるので早めの診察が必要です」
●更年期によるホットフラッシュも自律神経の乱れによる多汗症状
ーー汗が止まらない、または快適な環境下にも関わらず汗が吹き出すと聞くと、更年期によるのぼせやほてりなど(ホットフラッシュ)が思い浮かびますが、なぜホットフラッシュのような多汗症状が起こるのでしょうか?
「ホットフラッシュは更年期の代表的な多汗症状です。加齢により卵巣機能が衰えると”女性ホルモン”とも呼ばれるエストロゲンが分泌されにくくなることで起こります。脳は一生懸命に卵巣にエストロゲンを分泌するように司令を出しますが、卵巣はエストロゲンを分泌しません。その混乱が自律神経に伝わってしまい、体温調節のできないホットフラッシュや、多汗症状を引き起こしてしまうのです。
年齢が45歳から55歳頃の女性であり顔や身体がほてり、額から吹き出すような汗をかくのであれば更年期症状を疑います。しかし、更年期症状と自律神経失調症の症状はとても良く似ていることから自己判断は非常に難しいでしょう。更年期症状を抑える市販薬もありますが、安易に服用せず医師にご相談くださいね」
ーーちなみに自律神経失調症や更年期以外に、多汗症状が起こる病気はあるのでしょうか?
「甲状腺機能亢進症や低血糖、また悪性リンパ腫が引き起こす多汗症状があります。甲状腺機能亢進症は、妊娠中に起こる一過性のものがあり、この場合の多汗症状は自然治癒が見込めますのでご安心ください。その他にも、結核などの感染症によって激しい寝汗をかく病気も少なくないため注意が必要です。感染症による寝汗は盗汗(とうかん)とも呼ばれ、まるでプールに飛び込んだかのような大量の汗をかきます。寝汗で目が覚める、シーツまでビショビショになるといった多汗症状がある場合、すぐに診察を受けてください」
●多汗による受診の目安と診療科の選び方
ー日頃から汗かきタイプの場合、健康的に問題のない汗なのか、病気による危険な汗なのか…区別することは難しいのではないでしょうか?
「たしかに暑がりで冬でも汗をかきやすい方は受診のタイミングや、診療科選びに迷われる患者さまが多いですね。しかし、危険な汗は気温や室温に左右されず大量の汗をかきます。また顔や脇、手のひら・足の裏など局所的に汗をかくことが特徴です。汗に伴いイライラしたり、気持ちがふさぎがちなどメンタル面での不調を感じた際は必ず受診してください。
そして、多汗による診察は汗の匂いやワキガのお悩みであれば、まずは皮膚科を。45〜55歳くらいの女性で、ほてりや顔から吹き出すような汗があれば婦人科へ。男女問わず強いストレスを抱え、暑さを感じることのない環境下での多汗でお悩みの方は、心療内科を受診してください。自律神経失調症の自然治癒は難しいとされています。また多汗には重篤な病気が隠れている可能性も少なくありません。たかが汗と放置せず、早期に受診し適切な治療を行うことが大切ですよ」
<危険な汗の特徴>
- 暑さを感じるはずのない環境下での大量の汗
- 顔や脇、手のひら足の裏にかく止まらない汗
- 突然に吹き出すような汗
- シーツが濡れるほどの汗
- 制汗剤が効かない
<受診の目安>
- 寒い(快適な環境下)のに大量の汗
- 顔がほてり吹き出すような汗
- 脇汗が止まらない
- 手のひらや足の裏に汗をかき、書類が濡れるなど日常生活が困難
- シーツが濡れるほどの寝汗
- 汗だけでなくイライラや落ち込みが激しい
- 寝つきが悪い(不眠)
●異常な多汗とメンタル不調であればまずは心療内科へ
普段から暑がりであったり汗かきの方は放置しがちで、症状が悪化するケースもあるそうです。冬に異常な量の汗を局所的にかいたり、イライラや不眠などメンタル面での不調を感じた際は、早めの受診で多汗症状を引き起こす原因を調べましょう。