連続する部屋を、壁ではなくて襖で仕切る二間続きの部屋。建具を着脱することで、大きなワンルームにしたり、必要な個室を設けたり。そんな日本の伝統的な住まいのような特徴を備えるのが、今回紹介するマンションリノベーションの事例です。ここに建具をつけたり、開放したままにすることで、家族構成や暮らしの変化にフレキシブルに対応できるようになっています。1977年築の中古マンションをリノベした井上さんのお宅を訪ねました。

建具の着脱で間取りが自由に変えられる住まい
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目次:

間取りを固定しないことで、限られた面積を最大限に生かす壁面には造作収納をたっぷりとコンパクトなキッチン&水回りにも工夫をこらして木の質感を生かしてぬくもりある空間に間取り(リノベーション前後)

間取りを固定しないことで、限られた面積を最大限に生かす

襖で間仕切りできるように、柱と鴨居を設けたリビング

「今は3人家族だけど、もう1人子どもが欲しいから広さは70㎡以上がいい」。そう考えていたものの、立地のよさや価格から、62㎡の中古マンションを購入。工夫次第でどうにかなる!と、建築家の丹羽洋文さんの力を借りて実現したのが、建具で自由に間仕切りできる住まいです。

窓に面したリビングは、DKや寝室と一体感のある空間に。建具をつければ客間にもなります。

特注の置き畳を敷いた、リビング横の寝室

今は妻と子どもが使っている寝室。スペースに合わせて特注した長辺約1.9メートルの置き畳は必要に応じて1枚単位で移動でき、多目的に使える空間です。

ダイニングとつながる、収納を兼ねた子ども部屋

手前から子ども部屋、ダイニング、リビングと、3室が一列に並んでいます。間仕切りがないので、それぞれを広く使えるのがメリット。建具をつけて、それぞれを個室にすることもできます。

収納を完備し、2畳でも快適な夫の寝室

玄関を入ってすぐのところにある夫の寝室。こちらも引き戸で個室にできます。ベッドが置けるだけの2畳という広さですが、足元側にはカウンターや棚が造り付けてあり、機能的な空間です。

「家族構成や暮らしの変化に対応できる住まいに」という夫妻の希望は、引き戸をフル活用し、間取りを固定しない住まいにすることで叶えられました。

【この住まいのデータ】

▼家族構成
夫34歳 妻33歳 長男4歳

▼リノベを選んだ理由
自分たちのライフスタイルや価値観に合った家をつくりたい、と考えたため。夫の実家をリノベしてもらったときの印象がよく、無垢材などの素材を大事にする作風も好みだった、すまい研究室の丹羽洋文さんに設計を依頼

▼住宅の面積やコスト
専有面積/62.00㎡ 物件価格/1280万円 工事費/810万円(税、設計料込み)

壁面には造作収納をたっぷりと

リビングの壁面に造り付けた、デスクを兼ねた収納

住まいの東側の壁には、ずらりと収納が造り付けてあります。リビングの収納には、デスクとして使えるスペースも。上部は寝具の収納スペースです。

テレビボードや本棚の機能を持たせたダイニングの造作収納

ダイニング部分の造作収納は、テレビボードや本棚の機能をもたせました。家具を置く必要がなく、限られたスペースを効率的に使えます。

造作家具の一部として設けた子ども部屋のデスク

子ども部屋の造作収納にはデスクも組み込みました。用途に応じて気軽に変更できるように、デスク天板や棚板はシンプルな造りになっています。

コンパクトなキッチン&水回りにも工夫をこらして

業務用を採用したコンパクトなキッチン

業務用のパーツを生かしたオリジナルキッチン。市販のケースやツールバーを使って収納量をアップさせています。木が多用されたぬくもりある空間にステンレスのクールな雰囲気が加わりました。

ボウルのみのシンプルな洗面台

必要な収納は住みながら自分たちで用意する、という前提でボウルのみのシンプルな洗面台を採用。木枠のミラーはイケアで購入したものです。

ウォールシェルフと市販のケースで収納を増やした洗面室

洗面室の壁面にはオープン棚を取り付けて収納力をアップ。入居後にスペースにぴったりの市販の引き出し&ラックも追加しました。

開き戸から引き戸に変更したトイレ

トイレの扉は、開き戸から可動域が少なくてすむ引き戸へと変更。便器も取り替えて、背面側にはオープン棚を設置しました。

木の質感を生かしてぬくもりある空間に

オープンな下駄箱のある、木材を多用した玄関

居室側との一体感と広がりが感じられるよう、床だけでなく土間部分にもラーチ材を用いた玄関。シンプルなオープン棚が下駄箱代わり。棚板を増やしたり、ピッチを変えることもできます。

コートや外遊びのおもちゃの収納に重宝している玄関横のフリースペース

玄関横のフリースペースは、外遊び用のおもちゃや雨具などのほか、冬にはコート掛けを置くのに重宝しているそう。

壁の一部を杉板で仕上げた廊下

間仕切りとして唯一廊下に立ち上げた壁。床から天井へ電気を配線するとともに、鴨居と柱で構成されたフレームの安定性を保つためのものです。アクセントとして一部に杉板をあしらいました。

鴨居、柱、造作収納で構成されたリノベの模型

「間取りが自由に変えられるのは、住んでいて楽しいですね」と夫。間取りにも収納にも可変性を持たせたことで、子どもが増えても、いずれ夫婦2人の暮らしになっても、その時々の暮らしに「最適化」できる住まいになりました。

間取り(リノベーション前後)

リノベーション前の間取り図

リノベーション前

リノベーション後の間取り図

リノベーション後

設計/すまい研究室一級建築士事務所
丹羽洋文さんが主宰する2010年設立の一級建築士事務所。時を経て熟成していくこと、自然を感じられること、遊び心や美しさを取り入れることなどを設計理念とする。「動かせる部屋」「動かせる収納」といった、従来の間取りにとらわれない柔軟な発想が特徴。「建築家不動産」に参加し、新築用の土地やリノベの物件探しからサポートする

撮影/山田耕司 ※情報は「リライフプラスvol.26」取材時のものです