東京・千代田区に建つこの家は地上3階地下1階のRC造で、延床面積231.7㎡。晩年のアントニン・レーモンドが医師一家のために設計した家で、竣工は1970年。都心に残ったこのヴィンテージハウスを住み継ぎ、自分たちらしく暮らす原田さん家族を訪ねました。

都心に残ったヴィンテージハウスの外観
すべての画像を見る(全19枚)

目次:

1970年竣工、コンクリート打ち放しのモダンな佇まい残すところは残し、できることは自分たちでやるモダニズムと和の伝統が調和したリビングダイニング赤を効果的に取り入れて、洗面・バスルームをポップに手つかずの4階は、将来の子ども部屋に価値ある家を代々住み継いでいきたい

1970年竣工、コンクリート打ち放しのモダンな佇まい

1階駐車場の壁に貼られたレーモンドの署名入りプレート

アントニン・レーモンドはチェコ出身の建築家で、フランク・ロイド・ライトの弟子にあたる人物。来日して帝国ホテルの建設に携わった後、長く日本で活躍し、日本の建築家に大きな影響を与えました。そのレーモンドが、日本人医師とフランス人の妻と6人の子どもたちのために設計したのが、この家でした。

1階駐車場の壁に貼られたレーモンドの署名入りプレート。施工は佐藤秀工務店、竣工は1970年としっかり刻まれています。

ヴィンテージ感が漂う門灯

門灯にもヴィンテージ感が漂います。

【この住まいのデータ】

▼家族構成
夫妻、長男5歳

▼リノベを選んだ理由
価値ある不動産を持ちたいと思って、ようやく巡り合ったアントニン・レーモンド設計のヴィンテージハウス(現在、「富士見の家」と呼ばれる)。手を加えながら住み続ければ、この家の価値はさらに高まるに違いないと思ったから。

▼住宅の面積
延床面積 231.7㎡

残すところは残し、できることは自分たちでやる

床を張り替え、天井を外し、露出した配管を整理したキッチン

「手を加えながら住み続ければ、この家の価値はさらに高まるに違いない」。原田さんは夫妻は可能性を感じたそう。価値ある住宅の継承を支援している「住宅遺産トラスト」を通じて建主の末娘とも会い、この家を大切に住み継ごうと決意。間取りの変更や水回りの工事はリフォーム会社に頼み、あとは自分たちでDIYすることに。

キッチンは床を張り替え、天井を外し、露出した配管を整理しましたが、設備機器はほぼ元のまま。住み始めてからも自分たちで少しずつ手を加え、キッチンの作業台を増やしたり、玄関のコートクロゼットの中に靴収納棚をDIYしたり。レーモンド設計のオリジナル部分を残しながら、住みやすくカスタマイズしていきました。

4層の空間を貫くコンクリートの螺旋階段

4層の空間を貫くコンクリートの螺旋階段は、まるでひんやりした洞窟のようです。

モダニズムと和の伝統が調和したリビングダイニング

モダニズムと和の伝統が調和したリビングダイニング

設計当時の間取りは、1階は玄関と大収納とメイド室。2階はLDK。3階は細かく仕切られた子ども室で、4階は主寝室と個室がもう1つ。大家族仕様をどう変えれば、家族3人が快適に暮らせるだろう?

DIYの心得がある夫は、設計図を読み込み、「どこを残すか、どこを直すか」を検討。障子やオリジナル造作家具がある2階のLDKはそのまま生かし、新たに木とブラックを基調としたデンマーク家具を入れました。

DIYでよみがえった寄木細工の美しい床

DIYでよみがえった寄木細工の美しい床。傷んでいたところは、表面をサンダーで削り、ニスを塗って、自分たちで再生させました。

小窓でつながるダイニングとキッチン

ダイニングとキッチンは小窓でつながっています。

デンマーク家具で統一したダイニング

家具や照明器具は、北欧デンマーク発祥のインテリアショップ・ボーコンセプトにスタイリングを依頼。

障子とマッチす照明

木や障子を使ったレーモンドの意匠とデンマークの家具や照明器具がマッチしています。

赤を効果的に取り入れて、洗面・バスルームをポップに

トイレと一体化した洗面室

3階の一室をトイレと一体化した洗面室に。白×黒の床に赤の椅子が印象的です。

赤く塗ったバスルーム内の壁

バスルーム内の壁を赤く塗り、身長計にもなるシール(IKEA)を貼って楽しく演出。

広い寝室

3階は全面改装し、広い寝室をつくりました。

手つかずの4階は、将来の子ども部屋に

納戸状態の4階

手をつけなかった4階は元主寝室。オリジナルの家具が残っています。現状は納戸のような状態。これからやりたいことは、4階を整理して、元主寝室をゲストルームに変えること、そして子ども部屋をつくること。「ゆくゆくは4階の一室を子ども部屋にと考えていますが、3階の寝室が広いので、とりあえずはパーティションで仕切ってもいいかな、と考えています」(夫)

レトロな青いバスタブやトイレを配したバスルーム

今は使えませんが、4階にレトロな青いバスタブやトイレを配したバスルームがあります。

大型制御盤

大型制御盤は、この家が大がかりな空調設備を備えていたことを示しています。

価値ある家を代々住み継いでいきたい

欧米式で段差のない1階玄関

欧米式で段差のない1階玄関。

オリジナルベンチのある玄関

玄関扉、タイル壁、ベンチはオリジナル。時計はフランフランで購入したものだそうですが、空間にマッチしています。

リビングでくつろぐ原田さん家族

「一生に一度のことですから、価値ある不動産を持ちたいと思って、都心の戸建てをずっと探していたんです」(夫)。港区、目黒区、品川区と、都心で数多くの戸建て住宅を見て歩き、2013年にようやくこの家に巡り合いました。

5歳の長男はこの家にすっかり馴染んで、コンクリートの円筒のような螺旋階段を駆け上がったり駆け下りたり。複雑な立体構造の空間を自由自在に動き回っています。この価値ある家を「息子が住み継いでくれるといいな」と原田さん夫妻は話してくれました。

施工/佐藤秀工務店
撮影/飯貝拓司 ※情報は「リライフプラス vol.32」掲載時のものです