新潟市の繁華街・古町の中心部から10分あまり、テクテクと南へ下った上古町商店街。「カミフル」と呼ばれるこの地区に、真保元成さんは地元新潟の食材にこだわったレストランをオープンさせました。建物は築100年以上の町家で、大正時代に別荘として使われていたものをリノベーション。店は外観も内部も当時の独特な雰囲気を残し、今もここを訪れる人を楽しませる空間になっているようです。「思いついたらすぐ行動するタイプ」という真保さん。故郷へUターンし、今では理想の古民家レストランを開店したものの、ここにたどり着くまでには様々な変遷があったそうです。

町家をリノベーションしたレストラン外観
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古い町で地元とつながりながら、地元の食材を取り入れたイタリアンを東京、神奈川、福島を経て、新潟・上古町にたどり着く大正時代に別荘として建てられた町家をリノベーション

古い町で地元とつながりながら、地元の食材を取り入れたイタリアンを

古民家レストランを開店した真保さん

新潟市にある上古町は、「カミフル」と呼ばれ、感度の高い人たちが集まる地区。昔ながらの個人商店に交じって個性的なカフェやセレクトショップが軒を連ねています。真保さんは、この町の一角に町家を見つけ、レストラン「armonia(アルモニア)」を2年前にオープンしました。

レストランの店内

「armonia」では、イタリア料理をベースにした創作料理を提供。イタリア料理には珍しく、豆腐や味噌など日本の食材も取り入れているそうです。

新潟産のこだわりの野菜

真保さんがこだわる食材は、調味料以外99% は新潟産。酒、米、日本海の海産物、繊細な風味の在来種野菜やブランド肉…。魚介類は市場で直接仕入れ、肉や野菜は生産者から直接買い付けています。

新潟の食材を生かすレストラン

「新潟に帰って1週間後ぐらいにオーガニックマーケットに行ったら、直売をしている農家さんたちがいたんです。全員に名刺を渡して挨拶しました」。このときに知り合った生産者との付き合いは今も続いているそうです。「何も知らずに新潟に来たので、地元の皆さんに教えていただきました」。

そう語る真保さんですが、新潟の食材を生かすレストランを最初から志向していたわけではありませんでした。

東京、神奈川、福島を経て、新潟・上古町にたどり着く

真保さんは、県内の三条市出身。新潟市の調理専門学校を卒業した後、東京のナポリ料理店に就職。その後もいくつかの店で修業を重ね、2011年に神奈川県茅ヶ崎市に共同経営で自分の店を開きます。その店は料理のおいしい自然派ワインバーとして人気を集めていましたが、開店から4年後、お店を閉めました。

厨房の様子

その理由のひとつは、食材の追求。有機や自然栽培の食材を志向しているのだから、顔の見える生産者から仕入れたいという願望が徐々に強まっていったこと。もうひとつが、2011年に起きた東日本大震災。当時1歳だった幼い長男への影響を考えて、西日本に移住しようと考えたのです。

地元野菜を使った料理

「思いついたらすぐ行動するタイプ」と自認する真保さん。反対する妻を説得して店をたたみ、家族とともに車で日本各地を周遊する旅に出ます。移住先の候補として見つけたのは福岡県の糸島。

しかし、この地で勝負しようと決めた矢先に熊本地震に遭遇します。糸島にも震災の影響があったため、計画を断念することに。

地元野菜を使った料理

「貯金も減ってきたので、とりあえず実家に戻ることにしました。しかし新潟に来たら、ここが求めている食材の宝庫であることを再発見したんです。それで新潟市でも勢いのあるエリアの上古町地区で店舗を探すことにしました」。

大正時代に別荘として建てられた町家をリノベーション

大正時代に建てられた町家をリノベーション

新潟にUターンしたのが2016年。armonia をオープンしたのはその翌年です。「最初から古民家で営業すると決めていたので、町じゅうを歩き回って探しました。そうしたら「貸店舗」の看板が出ていたのがこの店だったんです」。

状態の良い町家をレストランにリノベーション

カミフルの一角で見つけた状態のよい町家。それは大正時代に別荘として建てられたという風情のある建物でした。

室内外の意匠も当時のもの

改修のデザインは建築家に依頼。築100年以上の建物だというのに、躯体にゆがみはほとんどなかったそうです。その結果、改修は最小限にとどめ、室内外の意匠も当時のものをそのまま残すことができました。

使い勝手がよい厨房

その分、使い勝手がよい厨房とグレードの高い機器に予算をかけることができたのです。

様々な情報を集めて助成金も利用。「にいがた産業創造機構(NICO)から起業助成を受け、改修費に充てました。そのほかに、新潟市から店舗の家賃補助、借り入れ金の利子補給などを受けています」。

築100年以上の建物の風情を活かす

私生活といえば、現在は妻と長男が学校の関係で横浜に住んでいるので、新潟に単身赴任状態だそう。休みの日は、お互いに新潟と横浜を行ったり来たり。茅ヶ崎に住んでいたとき始めたサーフィンも、新潟の海で再開したといいます。

「店が終わり、12時頃から飲み始めて、そのまま寝ないで魚市場に行くこともあります。好きだからできるんですね(笑)」。

地元素材の料理

お店は、厨房は真保さんが、ホールはスタッフに任せ、2人体制で店を切り盛りしています。

真保さんの新潟愛は、食材以外にも。カトラリーは燕三条の金属加工品、箸は三条の老舗木工場製、箸置きは安田瓦と、店では新潟の職人技によってつくられた品々を使用しています。

新潟の職人によって作られた品々を使用

「armonia」は今では、料理の質と隠れ家的な趣によって、知る人ぞ知る店になっているようです。周囲に飲食店は多くはありませんが、お客はわざわざこの店を目指して来店してくれるとか。

隠れ家的な趣きで人気のお店

「おかげさまで順調です。上古町がさらににぎわうお手伝いができればうれしいですね」。腕一本で切り開く料理の世界。故郷・新潟は勝負の舞台にふさわしい場所だったようです。

※情報は「住まいの設計2019年12月号」掲載時のものです
取材/平山友子
撮影/山田耕司