中村邸は、陶芸家の妻のアトリエと建築家の夫のアトリエを兼ねた職住一体の住まい。こうした機能をもたせながら、敷地面積は約16坪、さらに間口の狭い細長い敷地という厳しい条件でした。設計をした夫の高淑さんはどのように、これら条件をクリアしたのでしょうか。あらゆる面で興味深い中村邸をご紹介しましょう。
キッチンに隣接する陶芸アトリエ
中村さん夫妻の家は、間口わずか2.77m。南北に長い建物は、3階建て。その2階に妻、直子さんの陶芸アトリエがあります。
まずは気になる陶芸アトリエをご案内しましょう。
妻の陶芸アトリエは、2階のダイニングキッチンと同じフロアにあります。写真奥がダイニングキッチン、手前がアトリエスペースになっています。ダイニングキッチンとアトリエを仕切っているのは、視線の通るガラス。その部分に棚をしつらえてギャラリーとして活用しています。
こちらが陶芸アトリエです。
西側の大きな窓から光が注ぐ明るい空間。閉じこもって没頭するよりも、暮らしと創作が緩やかにつながる直子さんのスタイルが伝わってきますね。音や光、人の気配が伝わり、家事と創作の切り替えもスムーズだそうです。
ここでこだわりのものといえば?
無垢ブラックウォールナットの作業テーブルだそうです。塗装した天板で粘土を練るとくっついてしまうため、無塗装の板を探し、銘木の店で見つけ出しました。
「陶芸は孤独な作業ですが、私の場合ひとりだと寂しくなってしまうんです。案外、人が近くにいたほうが集中できる気がしますね」
「陶器は、生活で使うものがつくれるのが楽しい」と器や陶壁、アクセサリー、花器なども広く制作。
ペンダントライトは高淑さんのオーダーで、高淑さんが設計した住宅に納品したもの。ドットからこぼれ出る光が楽しめます。
ギャラリーとして使用する棚は、近づくとこんなふう。
ガラスなので、ダイニングキッチン側からも作品を見ることができます。ちなみに直子さんは東京・自由が丘で陶芸教室を主宰しているそうですよ。
細長い敷地を最大限に使う
間口の狭い地上3階建ての外観は、ショップのようなたたずまい。「時代や用途に合わせて住宅以外にも転用できる設計で、長く生きる建築を目指しました」と高淑さん。
右隣の建物も高淑さんが設計しただけあり、2棟の建物はぴったり調和が取れています。木とコンクリート、ガラスのミックスが共通していますね。
さて、どのように難しい土地の形状を克服したのでしょうか。
間口は2.77mで、縦に長く、奥行きがあります。特徴としては、ガラス面が多いことが分かりますね。やはり構造がポイントでした。細長い敷地を有効に使うため「薄肉ラーメン構造」を採用しています。
左右に見える偏平な木製壁柱がフレームになって支えるため、室内に柱型や梁型、耐力壁が現れず、広く使えるのです。
構造体である壁柱以外の壁はすべてガラスを使い、間仕切り壁も最小限に。どこにいても視線が抜け、広がりを感じさせてくれます。
では、他の部屋はどのようになっているのでしょう。3階はプライベートなフロア。主寝室にも、窓からたっぷり光が注ぎます。
寝室側から北側を見たところ。ガラス窓とまっすぐな廊下により視線が抜けます。
廊下の右手にゲストルーム、奥の扉の先にバスルームとトイレがあります。バスルームと洗面室、トイレは壁や廊下を設けずワンルームに収め、狭さを感じさせない設計に。
洗面室は2面をガラスにして光を取り入れ、広がりも演出。カウンター下に洗濯機をビルトインし、背面に室内干しスペースを設けて家事動線に配慮しました。
日当たりがよくて、愛猫もウトウト。
「お気に入りはベッドの上。窓から光が入ってポカポカするの」
ギャラリーも兼ねる多目的ガレージ
1階はガレージとガレージ奥に高淑さんのアトリエ、という構成。
1階はRC造です。柱型が現れないため、間口が狭いながらも愛車のポルシェが収まるガレージを実現しました。ガレージはギャラリーやイベントスペースも兼ね、夫妻で2人展を開催したりガレージセールを開いたこともあるそうです。
黒い螺旋階段が、より空間をシャープでおしゃれな印象に。
右手の壁は、直子さん手焼きの陶壁で、微妙に色の違う陶板が繊細なグラデーションを描きます。ポルシェの赤が映える空間ですね。こちらは1階奥の高淑さんのアトリエ。
コンパクトながら収納するものを徹底的に採寸し、ぴったり合う家具を造作しているため必要十分な空間。打ち合わせには2階のダイニングを使うこともあります。設計から引っ越しまで2年を要したという高淑さん。間口の狭い敷地をいかに有効に使うか、何度も模型をつくって検討を重ねたそうです。
敷地を存分に有効活用したお宅ですが、ガレージがイベントスペースになったり、ダイニングが打ち合わせ場所になったりと使用目的を定めないことでも、実際の面積以上の広がりを感じさせるんですね。
練りに練った設計によって、仕事も暮らしも快適かつスムーズな中村邸でした。
設計/中村高淑(unit-H 中村高淑建築設計事務所)
撮影/桑田瑞穂
※情報は「住まいの設計2017年7-8月号」取材時のものです