玉川上水や井の頭公園に近い住宅街の一角に建つM邸。「雑木林のような庭を眺めながら、外で朝食を食べたい」という要望から、Mさん夫妻の家づくりは始まりました。そのため、住宅設計時に造園家が入って庭づくりも同時に進行。日々の暮らしの中に、雑木の庭を見事に取り込んだM邸をご紹介しましょう。
庭の奥行きを最大限に生かしたプラン
焼杉の外壁と緑のコントラストが美しいM邸です。
建築家の佐久間徹さんは、約53坪の敷地の北側にL字型の家を配し、建物に対して約45度振った四角いテラスを南側に配置しました。限られた敷地の南の角まで長い距離が確保でき、奥行きある庭の眺めが楽しめます。
テラスはよく見ると角が欠き取られ、そこにシンボルツリーのソロが植えられています。こちらは造園家・栗田信三さんの発案です。
「建築家はとかく四角くしたがるのですが、栗田さんはそれを崩したかったんでしょうね。
また、われわれは平面で考えがちですが、造園家は空中にある枝や葉がどう広がっているのかを意識する。おかげで普段できないような、いいコラボレーションができました」(佐久間さん)
ソロは将来は大きく生長し、テラスをすっぽり包み込む予定だとか。数年後の庭の変化が楽しみですね。
こちらは敷地の南側の庭。中高木、低木、下草を合わせて、まさに雑木林のように。奥に高木のヤマモモが植えられ、奥行きを感じさせます。
テラスと庭、室内の心地よいつながりのある空間
テラスは、LDKがある1階から斜めに張り出すように設置。テラスに面したコーナーには大開口を設け、外とのつながりを強めています。
L字のコーナーに設けた開口部の木製建具は、2面ともすべて引き込めるようになっているので、外の空気を室内に存分に取り込めらるのも素敵。
キッチンからも庭の奧まで視線が通ります。左手の書斎からも、窓のすぐ外に植えられた低木越しに庭が見通せるように設計。
栗田さんは工事中に何度も現場に足を運び、それぞれの窓からの見え方を確認しながら樹木を入念に選んで植えてくれたそうです。LDの吹き抜けにも注目を!
これによって、2階からも吹き抜け越しに庭が眺められるのです。
「大開口だから、周囲から室内が見えないかな?」と思われるかもしれませんが、その点は大丈夫。隣家が迫っているけれど、こちらの庭に向いた大きな窓がないので、視線はほとんど気にならないとのことです。ちなみに、こだわりの薪ストーブは妻たっての希望で設置しました。
庭の緑は、浴室からも楽しめます。
浴室は庭を囲むようにL字型に配した建物の右袖部分に設置。さながらリゾートホテルのようにくつろげるバスルームです。窓のそばに植えた低木はプライバシーを守りつつ、低木越しに庭を見通すことで、より奥行きが感じられるとのこと。
下の写真は低木のハナユズ。実のなる木があると収穫の楽しみも増えますね。
訪れる人をワクワクさせる玄関からのアプローチ
敷地入り口から玄関へ誘うアプローチは、「手前の左隅にツリバナの木を植え、アプローチを曲線にすることで、導入部の印象をやわらかくしたかった」と栗田さん。右手のテラスとの間には目隠しの塀を設けました。
テラスにつながる入り口の塀はレッドシダー製で、風通しのよい「大和張り」。足元も透かせて、手前と奥の庭の一体感を出しています。アプローチの正面は借景の緑で、「栗田さんはお隣の緑とのつながりにも、すごく気を使ってくれました」(妻)。草木を眺めながらゆっくりと歩きたくなるアプローチです。
設計/佐久間徹(佐久間徹設計事務所)
造園/栗田信三(彩苑)
撮影/伊藤美香子
※情報は「住まいの設計2018年12月号」取材時のものです