●料理も自然にシンプルに。無理もしません
すべての画像を見る(全2枚)――お仕事でもある、「料理」に関してはいかがですか?
飛田さん:これは50歳でというより、ごく最近なのですが、薄味傾向になってきましたね。家族にも「薄い」と言われるけれど、私はちょうどいいから、「自分で味たしてね」と返しています。自分の昔のレシピを見ても、自分が考えたとは思えない濃さだったりします。でもね、これは「進化」というか、自然な流れだと思うんです。年齢や環境によって舌は変化していくものだから。それに、食材自体も昔に比べて味がしっかりはっきりして食べやすくなっているから、よりシンプルな調理法と味つけのほうが、おいしくいただけるんです。
――シンプルさには定評のある飛田さんのレシピが、さらにシンプルに進化されているのですね。
飛田さん:(頷きながら)最近はあれこれ素材を使わず、野菜ひとつとたんぱく質ひとつの組み合わせが多くなりました。だから、昔は何行もあった材料の欄がどんどん少なく、短くなっています(笑)。そのぶん、つくり方のポイントはたくさん入れ込みたいなと思ってはいるんですけれど。
――使う材料が少なくてすむのは、つくる側にとってはうれしい限りです。それでも、やっぱりキッチンに立つこと自体がしんどい日があったりして…。
飛田さん:私も同じ。料理家だからといって、1日キッチンに立っているのが幸せなんて思っていません。むしろ私は、だれかにつくってもらったおいしい料理を食べる方が好き。「今日はもうダメ」という日は、夫や娘につくってもらったり、お総菜に頼ったり。無理はしません。無理してイヤイヤながらやっていると、本当にもっとイヤになっちゃうから。まずは休んで、「またつくりたい」と思えるようリセットします。
――そんな飛田さんのリセット方法は?
飛田さん:まずは、だれかのためではなく、自分が食べたい料理を自分のためにつくることでしょうか。あとは、器をひとつ変えるとか、台所道具をひとつ新しくするとか…。包丁が研ぎ終わって返ってきた日は、無性に切ってみたいと思いませんか? そういうところから、やる気がわき起こりますね、私の場合。
「無理をせず、肩ひじを張らず、できないことはできないと素直に言えて、自分の感覚やペースでものごとをすすめる――。これこそが50代以降の“おとな”ならではの特権ですね」と語る飛田さん。最後にこう答えてくれました。
「おとなになるのも、悪くはないですよ」
最新刊『
おとなになってはみたけれど』(扶桑社刊)では、そんな等身大の飛田さんの暮らしがつづられています。ぜひご一読ください。
【飛田和緒さん】
料理家。1964年東京生まれ。高校3年間を長野で過ごし、山の幸や保存食のおいしさに開眼する。現在は、神奈川県の海辺の町に、夫と高校生の娘と3人で暮らす。気負わずつくれるシンプルでおいしい家庭料理を得意とし、著書は100冊を超える。最新刊のエッセイ本『
おとなになってはみたけれど』(扶桑社刊)が好評発売中。