「春眠暁を覚えず」という言葉を知っていますか。春の夜は短くて気候もいいので、ついつい朝になっても起きるのが億劫になり寝過ごしてしまうもの、という意味の漢詩の一節です。つまり、春になると朝寝坊をしたり、起きても眠気がいつまでも取れないことが多いのです。
しかし、いつまでも起きられない、眠気が取れないのは、じつはきちんと寝ているはずなのにぐっすり眠れていないことに理由があるのです。
眠りに詳しい医師の白濱龍太郎さんに、良質な睡眠をとるためのコツを教わりました。
眠りの質は最初の3時間がカギ!両立な睡眠のための注意点とコツ
睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2つに分けられ、前者は比較的眠りに浅い状態で、意識はないものの脳はまだ活動しています。夢を見たり、寝言を言うのはこの状態のときです。
一方、後者は脳も体も休息状態のときです。通常眠りにつくと、30分ほどで段階的にノンレム睡眠のステージ3まで到達します(上記図版参照)。
そして、約90分でノンレム睡眠とレム睡眠をくり返します。なかでも大切なのが、ノンレム睡眠の中で得られる“深睡眠(深い眠り)”で、疲労回復のためには欠かせない状態です。深睡眠は入眠後最初の30分~1時間後と、2~3時間後に現れるため質のよい睡眠は最初の3時間がカギを握っているのです。
●睡眠ホルモンと概日リズム
良質な睡眠を得るために睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の分泌をコントロールすることが大切です。私たちの体は、朝起きて太陽の光を浴びると、その14~16時間後の夜になるとメラトニンの分泌量が増え、脈拍や血圧、深部体温を下げて眠気を誘います。
さらに、体内時計とも言うべき概日リズム(サーカディアンリズム)も私たちの体に備わっています。
しかし、このメラトニンの分泌と、概日リズムを乱すものが昨今では増え続けているのです。つまり、睡眠の質を害するものが多いのです。
●睡眠ホルモンの分泌を妨げる“悪”ブルーライト
睡眠の妨げになるものが明るすぎる照明や、パソコンやスマホの画面から発せられるブルーライトです。寝る直前までこの光にさらされていると、せっかくのメラトニン分泌が抑制されてしまうのです。
そのため、夕方以降はブルーライトを極力避けた生活を送ることが、良質な睡眠を手に入れるためのヒントになります。
●ブルーライトカットメガネの活用術
・帰宅時
ブルーライトはパソコンやスマホの画面以外に、駅のプラットホームや飲食店の照明に含まれていることもあります。夕方以降の帰宅時は、ブルーライトカットメガネをかけて帰るとよいでしょう。
・夜中のコンビニ
スーパーやコンビニの店内は500ルクス以上の高い照度の光で照らされています。この光はブルーライトが多く含まれているため、とくに夜間はブルーライトカットメガネをかけての来店をしましょう。
●ぐっすりと眠るマル秘ワザ
・スマホを目覚まし時計に使わない
寝る寸前までスマホを手放せない人も多いですが、これはぐっすりと眠るためには避けたい習慣。スマホの画面から出るブルーライトの波長は紫外線に近く、眠る前に見るとメラトニンの分泌を抑え、交感神経を刺激して眠りを妨げる原因になります。
また、スマホの目覚まし時計機能を利用する人も増えていますが、それにも注意が必要です。目覚まし時計の設定は寝る前に行うことが多く、眠れなくなる原因を自ら招き寄せてしまっています。
さらに、目覚まし音に爆音を選ぶのも控えましょう。なるべくゆったりとしたリズムで始まり、テンポがだんだん速くなる邦楽に。邦楽にすることで、脳が自然と歌詞を理解してすんなりと目覚められます。
・睡眠負債の返済はコーヒー&アイマスクでの昼寝
睡眠がたりていない「睡眠負債」はこまめに解消するのが望ましく、そんなときは短時間の昼寝が理想的です。
私たちは生体リズムの影響で午後2時から4時頃に眠くなりやすく、また昼食によって血糖値が上がると脳を覚醒させるオレキシンというホルモンの働きが抑えられてしまいます。無理をして頑張っても能率は落ちるばかり。そこで午後1時くらいに、15~20分程度の昼寝をしましょう。
眠りに入りやすいようにアイマスクをつけ、さらに寝る前にホットコーヒーを飲むと、カフェインが効果を発揮し始める約20分後にはすっきりと起きられるでしょう。夜の睡眠に支障のないよう午後3時までにとどめ、20分以上は眠らないことが大切です。
・ランチに辛い食べ物を食べない
ランチの後に眠くてたまらなくなった経験はありませんか? 仕事の能率を上げるためランチでエネルギー補給をした後は仕事に集中し、夜にはぐっすりと眠れるのが理想です。そのためランチでは血糖値を上げやすい炭水化物(糖質)は控え、体の材料になる肉類などのタンパク質や野菜をたっぷりとるとよいでしょう。
とくに避けるべきは鍋や汁物、香辛料を使った辛いものです。これらは深部体温を高めるため、反動で体温が下がって生体リズムを乱し、午後の眠気のもとになります。
ただし、夕食は体温を上げる食べ物をとると、その後に体温を下げて眠気につながるためよい眠りを得られます。
・脱衣所からこぼれる光で入浴する
1日の疲れを癒やし、心身をリフレッシュさせてくれる入浴タイムは、ぐっすりと眠るためにも欠かせません。理想は就寝の1時間半~2時間前に、38~41℃くらいの少しぬるめの湯に15分ほどかけてゆっくりと浸かることです。
入浴剤を使うのもよいですが、こだわりたいのは照明の明るさです。浴槽のへりに頭をつけて浸かると、頭は自然とやや上向きになり、浴室の照明の光によってメラトニンの分泌を妨げてしまいます。そのため、あえて浴室の照明は落とし、脱衣所からこぼれてくる光だけにするか、アロマキャンドルに。照明を落とすのが難しい場合は、ホットタオルをアイマスク代わりにしてもOKです。リラックス効果が高まります。
人生の3分の1は寝て過ごすと言ってもよいほど、睡眠は人生の大部分の時間を割きます。そんな睡眠だからこそ、良質なものである必要があるのです。
白濱龍太郎先生が監修した最新本『
最高のぐっすり睡眠』(扶桑社刊)には他にもたくさんの朝までぐっすり眠るコツが紹介されています。今日からできることをたくさん紹介していますので、ぜひご自身で睡眠の質を向上させてみてください。睡眠の質がよくなることで、あなたの人生はより豊かになるでしょう。