ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている
@inubot。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第18回は、犬の冬支度と、犬との関係性について。
犬と過ごす6度目のお正月
すべての画像を見る(全22枚)「完全に自分のものやと思ってるやろう」
くふふと笑う母の視線の先は犬である。年々コタツをわが物としているが、今やコタツの番犬となってきた。
この前なんてコタツ布団に手先だけ入れていた。その様子が、両親が、コタツに長時間入っていたら熱くなってきて体は出したが膝からつま先だけ入れている姿を彷彿とさせた。
人間が50年かけてたどり着くような有意義なコタツの入り方まで心得ているぞと声に出して感心していたら、「偶然やぁ!」と妹に威勢よく言われた。
妹は前年に比べてしっかり休暇をとって帰省してきたので、年末年始をゆっくりと過ごせた。遊び相手が増えたと私そしておそらく犬もはしゃいでいた。
2019年12月31日
私と妹によってシャンプー納めが行われ、みんなで風呂場にいる間に、母は犬の毛まみれとなったコタツ布団の掃除に取りかかっていた。
写真・おしゃべり担当の妹が犬の気分を紛らわしてくれていたおかげで丁寧にシャンプーができて、今年もよく走ったねぇ寝転んだねぇなどと体にありがとうの想いを込めて洗っていった。まだまだ換毛期、毛が束になって抜けていく。
ドライヤーをすませふかふかになったところで、親戚のおじさんが育てた立派な大根をいくつも持ってきてくれた。犬は外で車が止まる音、コンテナをおろす気配から人が来たと察知すると、大きな口を開けて吠えはじめ、警備に勤しむ。
だが見知ったおじさんだとわかった途端「しゅふぅ」と鼻息を大きくひとつし、なでれなでれと催促しだす。おじさんもよっしゃよっしゃとなでてくれるのだ。
お正月の用意や片づけと、たいしたことをしてなくとも気忙しく、犬が届く圏内にマスクを放っておいてしまったらすぐさまオモチャと化していて、思わず笑えて体の力みが取れた。
犬と年を越すのも6度目かぁ。妹と年またぎにジャンプするのは20何度目だ。
みんなで紅白を見ていたが、今年も案の定23時を過ぎたあたりに妹の上まぶた下まぶたが重なりはじめて「45分に起こしてね」と寝る姿勢に入った。
もう眠りにつきそうなところで「…ねぇ、ここ…犬のここぬくいって写真撮って…」と言ってきたので見やれば、彼女の右手が犬とコタツ布団に挟まれている。どうやら犬の耳下あたりのほほがぬくいとおすすめしたいそうだ。
布団と犬のサンドイッチはたしかに至上である。そして犬と妹の組み合わせは、私からしたら辻希美と加護亜依のダブルユーに並ぶツーショットなので、いろんな角度から写真を撮っていたらうなりながら「もうええ…」と制され、おやすみ3秒で眠りに落ちた。おもしろい子らやのうとふたりの寝顔を撮って、2019年撮り納めとなった。
そして、2020年撮り始めは、新年を迎え初詣に行こうとする妹とつられて起きあがってきた犬だった。
元旦の朝、うちではお宮さんがある方角を向きながら頭上に鏡もちをのせてもらって一年間の無病息災を願うという習慣がある。どこの家庭でも行う風習だと思っていたのだが、こうして書くにあたって調べたらそうでもないらしい。
まぁ明るい縁起を担ぐのはいいことだ。年齢を重ねるにつれて気の持ちようがいかに大切かを学ぶ。ということで犬もやりました! こんなふうに瞬間、頭に乗せるだけ。
お正月だからと妹が大阪のなんばパークスで買ってきてくれた犬用のモンブランを出せば、目を見開いて食らいついた。私はというと深夜、妹との初詣でひいたおみくじの結果がよくなくてブルーだったが、ばくばくと活気よく食べすすむ犬をながめていたら腹から力がどんどん湧いてきた。
日常のなかでも犬はなんと福々しいのかと目を見張る光景によく出会う。犬が元気でそばにいてくれさえしたら万事円満やよ、豊穣な一年となるでしょう。
和歌山の山の奥から、みなさまのご清福をお祈り申し上げます。犬も、あなたも、灯がともる暮らしのなかですこやかにたくましく過ごせますように。新しい年もどうかinubotにおつき合いください。
蛇足。妹が帰省したら印象的な言葉をいくつか残していくが(「ねぇは昔からずっと三宅健の掌の上で踊らされとる」など、他者からしたらしょうもない発言もあるが)4日の夕方テレビを見ながら犬と居眠りをしていたときだ。妹がやってきて、私の左腕を枕にする犬を見て「えぇ犬そんなこともしてくれんの」いいなぁと写真を撮って去っていった。
遠くから妹が「ねぇは犬に隙間をだいぶ埋めてもらってるんやなぁ」とだれかに言うでもなくて独り言ちるのが聞こえてきた。彼女がそんなふうに言うことには驚いたけれど、それは少しの翳りもない事実であり、そのためにあいていたと思うほどだ。
この連載が本
『inubot回覧板』(扶桑社刊)になりました。第1回~12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。
【写真・文/北田瑞絵】
1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント
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