老いていく親には、健康に幸せな晩年を過ごしてほしいと思うもの。そのために大切にしたいのが、自宅の環境づくりです。豊富な介護経験を積み、故マザー・テレサ氏とも懇談をした、現役ケアマネージャーの田中克典さんに教えてもらいました。身近に潜む「転倒」を防ぐために、お金も労力もかけずにできる部屋づくりについて、詳しく紹介します。
すべての画像を見る(全5枚)転倒が原因で、高齢者の生活は一変してしまう
親の世代にとって、もっとも身近に潜む危険は「転倒」だと思ってください。厚生労働省の『国民生活基礎調査』(2022年)によると、介護が必要になった原因の1位は「認知症」(16.6%)、2位が「脳血管疾患(脳卒中など)」(16.1%)、そして3位に「骨折・転倒」(13.9%)が挙がっています。
加齢による身体機能の低下は避けられません。足腰が弱り始めると、歩行が“すり足”になっていき、段差や障害物につまずくリスクが高まります。
しかし、そういった体の動きの変化(=衰え)を、本人はなかなか自覚しにくいものです。以前に比べて親の足の運びが鈍くなっていたら、子が真っ先に気づいてあげてほしいと思います。
転倒すると、骨を折る大きなケガにつながることが多々あります。骨折して介護が必要になると、生活は一変します。それまで自分ひとりでできていたことができなくなるため、行動範囲が狭まり、交友関係も限定的になってしまいます。その結果として認知症の症状が顕著になったケースを、私はたくさん目にしてきました。
高齢者がもっとも転倒しやすい「意外な場所」
ところで、高齢者はどういう場面で転ぶのか、想像したことはありますか? 意外に思われるかもしれませんが、いちばん多い転倒場所は、リビングや風呂場、あるいは庭といった「自宅」なのです。
自宅に帰ってくるとホッとするという感覚は、若い人でももち合わせていると思いますが、家の中というのは「安心できる場所」です。
しかし、その安心感が裏目に出てしまい、わずかな段差やちょっとした障害物などにつまずいて転んでしまうわけです。つまり、高齢の親にとって転倒は、日常の生活動作の中で頻繁に起こり得る“まさか”の瞬間なのです。
転倒の危険から親を守ることは、子にとって非常に大きな恩返しになると私は感じています。転倒防止の方法はたくさんあります。大事なのは早めに手を打つということ。“転ばぬ先の杖”ということわざの通りで、親が転倒してしまってからでは遅いと思ってください。
たとえば滑り止めマットのようにホームセンターなどで扱っている商品は、家の中の危険な場所に気づいたその日に買いに行くくらいの気構えでいたほうがいいと思います。
目に見える対策ではありませんが、親に「転ばないように気をつけてね」という注意喚起の言葉を掛けることも大切です。
また、転ばなかったことを評価してあげる言葉も親の心に響きます。離れて暮らしていて、週に一度、電話で安否を確認しているような親子関係であれば、無事な親に対して「この一週間も転ばなくてよかったね」と喜んであげることで、親も「気をつけなきゃ」という意識をもつようになるはずです。