歩くことで脳の老化と戦いましょう。ここでは、住む場所で変わる認知症のリスクについて、また有効な歩き方について、脳トレの第一人者でもある東北大学教授の川島隆太さんに聞きました。
すべての画像を見る(全2枚)住む場所で認知症リスクが変わる?脳を老けさせない暮らしとは
歩くことで認知症予防に。歩くことで血液が循環し、脳の栄養分となる「脳由来神経栄養因子(BDNF)」が増加。それによって、新しい情報を取り込んだり記憶を保持したりする認知機能がアップします。
「厚生労働省の『国民健康・栄養調査』によると、歩数は都市部ほど多い傾向に。鉄道やバスといった公共交通機関が充実している都市部では、乗り換えのために、皆よく歩き、地方は歩かずにクルマを使ってしまう、という実態が見えてきます」というのは、川島隆太さん。
じつは、都市規模だけではなく、どんなエリアに住むかによっても認知症のリスクが変わってきます。
「東京医科歯科大学(現・東京科学大学)のグループが、65歳以上の高齢者を対象として、自宅近くの歩道の面積と認知症の関連を分析しました(※Tani American Journal of Epidemiology 2021)。都市部のみの結果ですが、歩道面積の割合が高い地域に住む人のほうが、認知症リスクが45%低いことが明らかになったのです」(川島さん、以下同じ)
とはいえ、認知症予防のために引っ越しをするのは現実的ではありません。
「毎日の生活で工夫をして、歩行する距離を延ばす、歩くときはできるだけ速い速度で歩くことを心がける、といったところから始めればよいと思います。地方に住んでいる方の場合でも近所へのちょっとした移動にクルマを使わず、できるだけ歩くよう意識してみてください」
60代以上の「もの忘れ」にも有効な有酸素運動
60代以上の人の脳活動を活性化するには、有酸素運動も効果的です。ジョギングやウォーキング、水泳などの有酸素運動と作業記憶能力の関係を調べた中央大学と筑波大学のレポート(※Hydo Imaging Neuroscience 2024)では、有酸素運動を長くできる高齢者ほど、作業記憶も優れているという結果が出ました。
作業記憶とは、いわゆる「ワーキングメモリ」と言われるもの。人は会話や計算をするなど、なにかの作業をするときに必要な情報を一時的にワーキングメモリに記憶し、情報を整理、コントロールしています。しかしながら、この作業記憶は加齢とともに能力が低下していくことがわかっています。
「『集中力が落ちた』、『もの忘れが多い』、『会話がかみ合わない』、『計画を立てることが難しくなった』といった困った事態は、ワーキングメモリの働きが落ちてしまったことで引き起こされている可能性が。それが日々、有酸素運動をすることで改善できるかもしれないのです」と川島さん。