愛媛と東京を行き来しながら、二拠点生活をする作家・作詞家の高橋久美子さん。愛媛では農業にいそしんでいる高橋さんですが、米騒動などで農業のあり方が注目される今、考えていることをつづってくれました。

高橋久美子さん
高橋久美子さん
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新米の季節に米を考える

新米の季節になり、お米騒動も和らいだみたいでよかった。

わが家でももうすぐ稲刈りが始まる。

先日、『わたしの農継ぎ』という本を出版した。字の通り、農業を引き継ぐということだけれど、そのままに継ぐということでもない。

私は作家・作詞家を続けたいし、東京を今すぐに離れるという選択も難しい。

試行錯誤し、二拠点を行き来しながら「継ぐ」にチャレンジした3年間を綴った本だ。

継ぐのは畑だけでなく、種や石積みの技術、食文化、やりはじめると思った以上にいろんな力が身についてきた。どれもとっても楽しい。なにより、生きている~!! と腹の中から力が湧いたし、長年の都会生活の常識をひっぺがされた。

二拠点生活をすることになったきっかけ

私は高校までを愛媛で過ごし、大学を徳島で、それから18年以上を東京で暮らした。

この連載でも、度々二拠点生活のことを書いてきたけれど、「東京を手放さず農業を継ぐだと? そんな甘っちょろいことできるわけない」と、父は大反対だったし、母も体を壊すのでないかと心配した。

それでも、まずはやってみようと1か月交代で行き来する生活をはじめた。一人では無理だけど、仲間と一緒にやってみよう。私以外は月~金は会社勤めをし、休みの日に交代で来て管理をする。稼がない、食べるための農業だ。

しんどいことが、みんな一緒だと楽しくなった。

石積みの修復
石積みの修復

しかし、楽しいことばかりではない。野生動物が作物を食べ、石垣が崩れ、畑以外のあぜ道の草刈りの多さ、水路の土砂かき、令和とは思えぬほどのアナログなシステムよ。だんだんと人が集まらなくなった。そうだよねえ、スーパーに行けば野菜は手に入るのだから、好きじゃないとやってられないよね。

農業の人手不足問題

ネットハウス
みんなで建設した猿よけのネットハウス

地域の田園風景は子どもの頃と変わってしまった。野生動物が山から下りてきて、田畑を荒らし、温暖化で上手く野菜が育たない。世代交代と同時に近隣の田畑は荒廃した。私たちが畑をしているエリアでは、昨年秋に最後の一人の方がやめてしまった。

米不足の原因は、温暖化による高温障害によるものが大きいとニュースでやっていたけれど、私の肌感覚では、それだけではないように思う。

私たちのような山間部の農家は、一区画が小さく、関東平野や北海道の田んぼに比べたら小規模だ。それでも、一人が辞めると、その人の米を食べてきた家族や親戚もスーパーで米を買うことになる。−1ではなく−5くらいなのだ。

そういうことが今、全国じゅうで起こっているのではないだろうか。

私が高校生くらいまでは、地域の3割以上が兼業農家だったと思う。専業農家はいないけれど、会社勤めをしながら、家族や親戚が食べる分+αを育てていた。

だから、米が大量に余って「今年も売れ残ったわー」と、農協に出していた。ものすごく安い値段で引き取られる。そう、「米は低価格で買い取られる」がデフォルトの時代が長く、割に合わなさすぎてやめていった人も多い。

しかし、ここ7年くらい、米がたりなかった。稲作を辞めてしまった知人が家に米を買いにくる未来をだれが想像しただろうか。