小児がん治療の発展のために研究支援と啓発をしたい

レモネードスタンド・マルシェ
品揃え豊富なレモネードスタンド・マルシェ
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こうして授かったお子さんは今年で3歳。抗がん剤治療をしている頃は、5年を無事に生きるのはすごく長いだろうと考えていたそうですが、後半はあっという間に過ぎたとか。そして、幸運にも生きている自分になにができるかを考えていました。

「悪性ラブドイド腫瘍はまだ情報が少ないがんで、効き目があるとわかっている治療法も確立されていません。研究や治療の発展を待ち望んでいる患者さんや、その親御さんはたくさんいらっしゃると思います。そのほかの小児がんでもまだ治療法が見つかっていないものが多いので、もっともっと研究されてほしいんです」。

自分の経験を発信するなかで、小児がんの親御さんと交流する機会が多く、そこでは自分の子どもと変わらない年齢の患者さんも少なくありません。莉子さんは出産後、自分のがんが「がん関連遺伝子」の変化によるものかどうかを確認するために遺伝子検査を受けました。自身の未来だけでなく、子どもや兄弟姉妹に影響があるかどうかを知るためでした。さらに、莉子さんの「がん関連遺伝子」が、がん研究にも役立てられると考えたのだそうです。

「本当に力になれるかどうかは、実際にはわからないけれど、今は自分が経験したことや、幸運にも元気になった姿がだれかの治療の糧になればと思って発信を続けています。それだけではなくて、直接、役に立つことがしたかった。それで、レモネードスタンドをやりたいと考えていたんです」

お母さんと
レモネードスタンド開催の背中を押してくれた母と莉子さん

そんな莉子さんの背中を押したのは、お母さんでした。去年の夏、季節感を出して夏祭りをコンセプトにした「レモネードスタンド・マルシェ」を莉子さんが勤めるスイーツショップ前で開催。

「まだ幼いわが子ががんになってしまった親御さんから相談を受けても、なんと声をかけていいかわからないこともあります。私の場合は抗がん剤治療が奏効しましたが、全員に当てはまるわけではありません。私が治療を終えて結婚も出産もして、子育てしながら今を生きていることは、すごくラッキーなことです。だから、レモネードスタンドで募金活動をすること、治療法のない小児がんが多いことを知ってもらう活動で役に立ちたい」

レモネードスタンド
レモネードスタンド・マルシェ

母親の聖子さんは、1回だけじゃなくて続けていくことが大事だねと莉子さんに伝えました。もうじき、3回目の「レモネードスタンド・マルシェ」を開く予定です。

私の人生は、がんありきです

乳がん経験者である私は、あえて莉子さんが嫌いな質問をぶつけてみました。

がんになってみて、どう?

「がんになってよかったとはもちろん思わないんですけど、私の場合はがんにならなければ子どもに会えなかったんですよね。つらい治療をして、健康になりたいとジムに通ったから、夫と子どもと共に生きる人生がある。今、がんになる前に戻って〈がんにならない人生〉と、〈がんになるけど夫と息子と歩める人生〉を選んでいいよと言われたら、たぶん私はがんになるほうを選ぶと思います。できるだけ、健康でいたいですけれどね」

私の人生は、がんありきです――それは乗り越えてきた莉子さん自身だからこそ、言えること。「それなりに、絶対に幸せになる」と、唇を噛み締めた彼女がつかみ取った人生なのです。

 

莉子さんのレモネードマルシェの開催情報は、焼き菓子工房 フォレスト・マムのInstagram(@forest_mam)に載っています。

監修:西智弘先生(川崎市立井田病院 腫瘍内科部長・一般社団法人プラスケア代表理事