朝ドラ「虎に翼」を見た母の反応

朝ドラ『虎に翼』の中で、主人公・寅子の母親はるが「賢い女性が幸せになるには、頭の悪いフリをするしかない」と言うシーンがあった。

NHKでこの台詞、全国の高齢女性たちの多くが静かに頷いたのではないだろうか。私と母は、父の隣で黙ってそのシーンを見た。父はさして気にもとめず聞き流したようだったけど、父が外出したあと、母は静かに「ほんとに、そのとおり」と言った。

「このへんの女の人の多くはそうやって静かに馬鹿なフリをして生きてきたんじゃないかな」と。

洗濯する女性
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数日後、近所のおばさんたちと立ち話をしていたら、やっぱり朝ドラのはるさんの話になった。みんな一様に「その通りだ」と言った。「いらんこと言わんように、黙ってニコニコして生きてきた」。

「久美ちゃんも、お父さんの前では馬鹿なふりして要領ようにしときなよ」と笑った。今も、昭和初期の雰囲気がはびこっている地元で、賢く、馬鹿を演じて生きる女性たちを、黙って見ていることが、私は正直とてもしんどい。でも、いまさら反旗を翻してみんなが幸せになれるわけではないこともよく分かる。だから黙っている。

「お父さんもちょっとはごはんの準備を手伝ったら?」とか、「怒鳴らなくてもわかるよ」とか「たまには、おいしいとか言ったら?」と、口元まで出かかって、飲み込む。

これをやってしまえば、母が暮らしにくくなるだけだとこの2年で学んだ。父は筍を掘ったり、山菜を取ってくるのは好きで、山ほど取ってくるが放置するだけ。母と私は連日アク抜きに追われる。アク抜きが終わり、母か私がきれいに煮た筍を父は黙って食べる。

少しずつ居心地のいい空間を求めてやっていること

母娘で炊事
※写真はイメージです

時代が変わっても、子どもの頃となにひとつ変わらない、いや、父は仕事から解放されたけど、母は主婦業から解放されない。波風を立たせたくないから、それを放棄する勇気をもたないのだろう。「なにを今更。もう50年も続いたこと。黙って私がやった方が早いしおいしいだろ」と。そりゃそうだけど、なんだかねえ。寝ころんでテレビを見ながら夕飯を待つ父。畑から帰って急いで夕飯の準備をする母と私。二人ともくたくたで、既に電池が切れている。日本の縮図を見ているようだ。

家は驚異的に広く11部屋もあるので、それぞれにプライベートを保ち、仕事もできるから実家で暮らすことができている。そうでなければ、なかなか難しいだろうなあ。

そこに最近レコードプレイヤーを買った。少しずつ自分の空間をつくっていきたい。

よかったことは、移住者もUターンもほとんどいない実家周辺に、隣町からときどき私の農業仲間たちがやってきてくれるようになったこと。私にとっても、母や近所の人にとっても、新しい世代との交流が生きがいになっている。メンバーも、畑で作物を育てながら、年の離れた人たちから様々なことを学べているんじゃないかな。

 

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