読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。
すべての画像を見る(全4枚)ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。
「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。
さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。
【今回の相談】リモート会議で緊張してしまう
リモート会議が苦手です。普通の会議より、じっと見られている気がして緊張してしまいます。(PN.エイミーさん)
【作者さんの回答】不思議な力が宿ったお面を使ってみて
ある日のこと、エイミーさんがため息をついていました。
「はぁ……嫌だなぁ」
エイミーさんはリモート会議が嫌でため息をついていたのです。
「わざわざ会議のときだけ身なりを整えなきゃいけないし……人の顔が気になって緊張するんだよなぁ」
「──そこのあなた」
急に後ろから声がしました。エイミーさんは驚いて振り返ります。そこには年齢不詳の男が立っていました。
「な、なんですか」
「リモート会議のビデオのオン・オフでお悩みですね。そんなあなたにぴったりな商品があります」
「セールスなら、ちょっと……」
「いいから。わたしについてきなさい」
男に連れられてエイミーさんがやってきたのは雑居ビルでした。地下につづく階段があり、蛍光灯が怪しく光っています。階段を降りると、“顔屋”と看板を掲げた店がありました。
「どうぞ、お入りください」
そう言って、男は入り口のドアを開けます。
「えっ──」
中に入って、エイミーさんは思わず声をあげました。たくさんの顔がエイミーさんを見つめてきたのです。人間の顔──ではなく、お面でした。壁一面にさまざまなお面が飾られていたのです。
「ここは世界中の変わったお面を集めた店なんです」
「へぇ、いろんなものがあるんですね……」
エイミーさんはお面をひとつひとつ見ていきます。だれかの顔を忠実に象ったものから、動物を擬人化したと思われるもの、怪物のような異形のものまでありました。
「……でも、なぜわたしをここへ?」
「お面には不思議な力が宿っています。それをつけると自信がついたり、実力以上の力を発揮したりするんです」
エイミーさんはお面を見ながら、ごくりとつばを飲み込みます。たしかに見ているだけで、吸い込まれそうな不思議な魅力がお面にはありました。
「気に入りましたか。そのお面はリモート会議でつけると、自信が湧いて人の目が気にならなくなるお面です」
「人の目が気にならなくなる──」
エイミーさんはそのお面に見つめ返されているような気がしました。
「よし、これを買います!」
「ありがとうございます。ただし、効果が出るのはリモート会議のときだけです。いいですね──」