読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。

今回のお悩みは…(写真はイメージです)
今回のお悩みは…(写真はイメージです)
すべての画像を見る(全4枚)

前回の相談はこちら

「SNSを見て他人の生活に嫉妬してしまう」というお悩み。心がスッとラクになる考え方とは
タイトル

ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。

「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。

さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。

【今回の相談】友人との定期的なコミュニケーションがうまくできず、疎遠になってしまう

相談者

友人との定期的なコミュニケーションがうまくできず、疎遠になってしまいます。人と会うときはいつも「久しぶり」です。(PN.スパークルさん)

【作者さんの回答】友達の知らなかった一面に触れてみよう

作者

いつからか「背中」の写真を撮ることが流行りだした。いまでは猫も杓子も背中を撮っている。

きっかけはあるボクサーがポートレートとして公開した背中の写真だ。その写真は彼を真後ろから捉えていて、トレーニング後の体温の高い肌が生々しく捉えられている。この印象的な写真は人々の心をつかんだ。

いつの間にか、自分の背中を撮ることがブームになっていったのだ。

ある美術評論家は雑誌に寄稿した記事でこう語った。

これは興味深いできごとだ。

人類史において、背中は基本的に無視されてきた。中世においてさまざまな肖像画が描かれたが、いずれも「正面」を捉えたものだ。「背中を描いてくれ」とオーダーしたものがいなかったことは、想像に難くない。

世界一有名な肖像画はかのモナ・リザだが、だれも彼女の背中を見たことがない。

この「正面」重視の傾向は近年においても顕著だった。わかりやすいのは自撮りだ。自分の顔を撮るという行為は、まさに肖像画の系譜に連なる。

しかし、現代人はやっと背中に目を向けるようになったのだ。「正面」という重力から開放されたのだ。

恐ろしいことに、人類の背中はこれまでまったく記録されてこなかった。このブームが単なる一過性のものではなく、歴史的な文化運動であることは間違いない。