●子育てでは“お互いの立場”や“意思”を大切にしたい
すべての画像を見る(全4枚)新人賞に応募するまで、小説を書いたことはないそうですが、子どもの頃に、小説家に憧れたり、「本」を読んだりすることはなかったのでしょうか?
「父が少し変わっていて、わが家の娯楽は制限されていました。ただ、本を買うのはダメだったけど、図書室で借りることは許されていたので、本は身近な存在だった。もし、テレビとか見せてもらっていたら本は読まなかったと思います。
あとは、想像をするのが好きで、本屋さんとかにある(本の)カタログとかを見て、タイトルとあらすじから一生懸命内容を想像して遊んでいました。ないなら自分でつくるというのは昔からあったので、今思うと、それが後々、“書いてみよう”という経験につながったのかもしれませんね」
幼少期の本を「読む」、「想像する」といった経験が、大人になってからの「小説家」という選択に知らぬうちに結びついていた寺地さん。
息子さんの“読書”事情について尋ねると、「親がすすめると読まなくなる可能性もあるから、(自身からは)あまりすすめてない」とのこと。そして、お子さんとのちょっとしたエピソードも教えてくれました。
「ある日、息子が家を出ないといけないギリギリの時間に起きたんですよね。だから、『急いで準備して!』って息子に言ったら、『遅刻するのは自分であって、お母さんではない。お母さんは、自分の子どもを遅刻させたくないという自分の都合で言っている』って返してきたんです。
もう少し整理されていない言葉だったけど、そういわれると、『そうだよな…』と思う部分もあって。子どもから“はっ”と気づかされることもあり、本人にも納得もしてもらわないといけないから伝えるということは難しいですよね」
そう話す姿は“小説家”から自然と“母”の表情に変わっていました。そして最後に、仕事と子育ての両立に奮闘する中で、子育てで大切にしていることを寺地さんに聞くと、「お互いの立場」と答え、こう続けます。
「子どもと接していると、どうしても親の立場の方が強くなっちゃうから、どうしたらいいんだろうなって思うことが多々あります。こちらの都合で強く言えば聞いてくれるかもしれないけど、それって力で抑えているだけ。そういうのじゃなくて、これからも子どもの『意思』みたいなのを大切にしてあげないとな、とは思っています」
自身の経験や日々感じたことを交えて、そう健やかな笑顔で語ってくれた寺地さん。後編では、話題作『わたしたちに翼はいらない』にまつわるお話を伺っています。