「なにをしようとしていたのか忘れてしまう」「言葉が出てこない」「マルチタスクが苦手になった」「なんだかイライラしがち」「スマホを手にしていないと不安」などなど。これらは、「年をとったなぁ」と感じる瞬間ですが、脳内科医で医学博士の加藤俊徳先生によると、疑うべきは老化ではなく「脳の劣化」だそうです。では、どうしたら「脳の劣化」を防ぐことができるのでしょうか? 加藤先生が自身でも実践しているという“脳習慣”を2つ教えてもらいました。

女性3人
脳の働きをもっとよくしたい…そんな風に思ったことはありませんか?(※写真はイメージです)
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大人の脳を成長させる習慣2つ

「日々の暮らしが脳を育みますし、衰えさせもします。私たちはコロナ禍で3年間、「動かない」日々を過ごしました。また、デジタル社会が急速に進展して、自ら覚え、考える機会が失われています。もっとも必要なのは“運動系脳番地”を再び働かせることです」

“運動系脳番地”とは体を動かすこと全般に関わる脳の部位で、人間の体でもっとも早く育ち、脳のほかの部位が活動するためのエネルギー源となるのだそう。つまり、運動系脳番地の働きが落ちると脳全体が弱体化し、心と体の健康寿命にも影響を与えかねない!? のです。ここでは、『一生成長する大人脳』(扶桑社刊)より一部抜粋してご紹介します。

●脳習慣(1)「手書き日記」で自分の基準を知る

脳が肉体を動かしているわけですから、脳に連動する肉体にアプローチすることで、「動ける体」になっていきます。とりあえず動くことが必要不可欠なのですが、まだその重要性に気づいていない人が少なくありません。その原因の1つは、自分のベストコンディションを知らないからだと思います。

脳も体もいい状態のとき、どれだけクリアに考え、アクティブに動けるのかを知っておくと、衰えや不調に気づくことができます。自覚できていなければ、脳の不活化に気づくことはできないし、それに対処することもできません。自分の脳と体に意識を向けることがとても大切です。では、どうやったら自分のベストコンディションーー基準がわかるのでしょうか。

ノートに書く

私が実践しているのは、日記です。大学ノートを1日1ページ使って、かれこれ40年続けています。1日を丁寧に振り返るなどといった大層なことではなく、その日あった興味深かったこと、おもしろかったことをメモとして手書きで残しているのです。

この日記を見返してみると、コロナ禍の間、直接会っているのは患者さんと家族だけ。ほか、誰とも会っていない日も少なくありませんでした。国際学会がなければ、海外や地方へ行くこともなくなりました。

日記に書かれている文章量自体、コロナ前より圧倒的に少なく、その内容を見ても、ただ日々の予定をこなしてるだけ。目新しい発見もなく、なんのインプットもできていません。のっぺりした単調な日々。それはつまり、脳にとっても刺激がなかったということです。

反省しきりではありますが、こうして記録することで、自分の行動や習慣が見える化されます。自分の行動で何が不足しているのか、「基準」となにが変わったのかを知ることができます。毎日、手書きで日記を書くことは運動系脳番地の強化法にもなります。

鉛筆やペンを使って手書きで文字を書くとき、脳は書く内容を考えつつ、手先の動きに対しても指示を出します。また、文字の大きさや筆圧、速度などさまざまなことをコントロールします。文字の「読み」を打ち込めばいいだけのパソコンと違って、さまざまな脳の部位を使います。

日記という習慣によって”基準”を把握することができれば、衰えにも敏感になります。「行動を変えよう!」という意欲も芽生えるのではないでしょうか。