●野良猫は自由なんかじゃない。保護に踏みきるも…
――野良猫は自由でいいな、と言う人もいますよね。たにゃパパさんも自由なたにゃ君にあこがれていたのでしょうか?
たにゃパパ:僕もずっと知らなかったんですけど、野良猫が自由だなんてとんでもない誤解です。たにゃの暮らしていた場所は、ビルとビルの間の室外機の上。ゴミだらけで、カビだらけです。歌舞伎町ですから、ケンカなんかもしょっちゅうありますし、サイレンの音も轟いて、ゆっくり眠ることなんてできなかったと思います。ごはんもない、水もない、快適な寝床もない。そんな野良猫を自由だなんて今の僕には思えません。
そんなわけで、たにゃの保護を試みました。Twitterのフォロワーさんたちからもアドバイスを受け、猫の保護団体にも相談して、忘れもしない2022年9月21日。ようやく捕獲することができました。
すべての画像を見る(全7枚)歌舞伎町で猫の保護活動をしている方は、たにゃは13年ほど前に歌舞伎町で一斉TNR(安全に捕獲し、不妊手術をして、元の土地に戻すという、野良猫の増加を防ぐ取り組み)したときの子だと思うと言っていました。TNRされた子は耳をカットするので、わかるんですよね。歌舞伎町ではそれ以来、TNRをやっていないそうです。つまり、そんなにも長い間、歌舞伎町でひっそりと、ギリギリの状態で懸命に生きてきたってことです。たにゃはすごい。たにゃが生きていたことも、奇跡です。
●一緒に暮らし始めて数日はごはんも水も摂らなかった
――生粋の野良猫を保護して暮らすのは大変なことだと思います。今のたにゃ君の様子はいかがでしょう?
たにゃパパ:暴れるようなことはありませんでしたが、保護して数日はごはんも食べないし、水も飲まないし、とても心配でした。脱走したらどうしようという心配もありましたし、気が気がじゃなかったです。
保護団体の方にも「一筋縄ではいかない」と言われたとおり、一緒に暮らして10か月近くなりますが、まだたにゃに触れていません。13年も野良だったんですから、当然ですよね。窓から外を眺めている様子を見ると「外が恋しいのかな?」と思うこともありますが、ベッドで安心して眠っているところをみると、保護してよかったなと思います。最近では横になっている僕を踏んで歩くようにはなりましたしね(笑)。
目を覆いたくなるような環境でも、「体をきれいにしたい」と必死でグルーミングしていたので、たにゃはきれい好きなんだと思うんです。だから、僕は今の部屋をとにかくきれいにしておきたくて、熱心に掃除するようになりました。大きな音や光も怖いみたいなので、テレビも撤去したんです。
●たにゃとのおかげで生活が一変
――たにゃパパさんの生活も変わったんですね。
たにゃパパ:はい。たにゃはトイレがきれいでないとしてくれないので、地方への出張があっても24時間以内に絶対に家に帰ります。最近はわがままで、冬用のベッドは暑いからって、寝ないんです(笑)。だから夏用のひんやりしたベッドを買いましたよ。苦労してきただろうから、そんなふうに甘えてくれるとうれしくなりますよね。お互い明日が見えない同士だったのに、支え合うことでなんとか生きられています。
僕たちの出会いにはきっと意味があるんです。あのとき僕と出会ってくれたたにゃには感謝の気持ちでいっぱいです。
『歌舞伎町の猫「たにゃ」と僕』(扶桑社刊)は8月2日頃発売です。