●妻は神様がくれたプレゼント

親子3人
二ツ目に昇進した初日。妻の明日香、長女の和奏と、新宿末廣亭の前で(本書より)
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じつは妻に出会ってからというもの、僕がやろうとしていることや考えを否定されたことは一度もありません。規制することもない。僕の最大の理解者であり、いちばんの味方です。
今でも、僕が後輩と飲みに行ってどんなにお金を使って帰ってきても、なにも言わない。普通、「どこでなにに使ったの?」とか聞きそうなものじゃないですか。あまりにもなにも言わないので、逆に心配になって僕のほうから白状しても、
「体調にだけは気をつけなさい」
と言うくらい。
「今月はこれ以上お金を使わないで」「それは買っちゃダメ」ということもない。逆に、「人前に出る商売なんだから」とすすめるほどです。
妻がいないと僕は終わります。僕が人としてたりない部分を、妻がちゃんと補ってくれている。人のことを信用しない僕が心を許せる。人嫌いの僕が本気で心の底から愛せる。
世の中でいちばん、一緒にいたい人、いやすい人です。だから、いつだってすぐ家に帰りたくなっちゃう。
そんな妻に出会えたから、僕は少しずつ成長できたのでしょう。根本は変わってないのかもしれないけれど、なにかにがんばったり、努力をするようになった。それまでは器用貧乏で、大した苦労もしないでそこそこうまくできちゃうから、適当なところで努力することをやめちゃう人間でした。
そして、僕が会社を辞めようとしたときに妻が言ってくれた「私が面倒みるから」という一言が効いた。僕の「やる気スイッチ」を押してくれた。そのとき初めて「人に迷惑かけている場合じゃない」とか、「なんとかしなきゃいけない」という気持ちが芽生えた。
常にだれかからなにかやってもらってばかりいる自分に気づいたのです。だから、変われた。
「この人のために落語家になろう」
と誓い、生まれて初めて本気になった。落語家としてのどんなつらい修業でも乗り越える覚悟ができた。『笑点』のメンバーになれたのも、座布団を十枚取れるまでになったのも、すべて妻のおかげです!(笑)
神様がくれたプレゼントですね。

●妻の言葉にある「無償の愛」

妻は「もっとがんばれ」とか「稼いでこい」とか、僕を追い込むようなことは一切言わない。逆に「よかったね」とか、ポジティブなことはよく言ってくれる。怒られたこともない。だからこそ、自発的に「がんばろう」となれるのだと思います。

だからけんかもしない。
僕がイライラして、八つ当たりでちょっと厳しいことを言ったことがあります。そのときは冷蔵庫の前でグスッと泣いていたので、すぐに謝りました。僕に見えないところでじつはものすごくがまんしているのかもしれない。そう考えたら、八つ当たりなんてできない。
「私たちは今幸せだから、これだけ生活できているし十分です」
「そんなに大変ならもっと仕事休んでいいよ」
妻の言葉には“無償の愛”があるんですよ。そういうのって普通、親だけじゃないですか。でも、妻からは感じるんですよね。なんの見返りも求めずに、そばにいてくれる。
何度でも言いますが、彼女に出会ってなかったら、いまの僕はない。人にもっと冷たかっただろうし、堕落した人生を送っていたはず。金もないのに遊んで、酒飲んで。妻に会うまでは自分がいかにダメな人生を歩んでいるかに気づいていなかった。「どうせなんとかなるだろ」って根拠もなく思っていました。下手したら人嫌いの性格がますます悪化して、完全な引きこもりになっていたかもしれない。
妻はある意味、僕に寄り添わないんですよね。僕が喜びすぎているときは一緒に喜ばないで落ち着かせ、僕が落ち込んだときは一緒に落ち込まないで平常心を保とうとする。そして、いつも適切なアドバイスをくれます。
家ではあまり仕事の話をしないようにしているのですが、たまにどうしてもつらくなることがあります。そんなときは、子どもたちが寝静まったあとに「もう耐えられないんだけど、どうしたらいい?」と妻にグチっちゃう。すると、「こう考えたら? そうしたら別に気にしなくていいじゃん」と言ってスッとラクにしてくれる。気持ちがどん底まで落ちて、本当にきついとなったとき、妻に何度も救われました。
逆に浮かれているときは「でもそれは、うまくいくかどうかわからないよね」とブレーキをかけてくれる。常に僕の手綱を締めたり、緩めたりしてくれるんです。
妻じゃないと僕の操縦は無理ですね。ほどよく締めて、ほどよく緩めてという作業を無意識にやってくれてますもん。

 

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