ご自身やご両親のお葬式について、家族や親族と相談したことはありますか?

「縁起が悪いような気がして事前に考えること自体を避けてしまいがちですが、じつはそれが準備不足によるお葬式トラブルの原因になっています」と語るのは、葬儀関連サービス企業でPRを務める高田綾佳さん。

「逆に言えば、事前準備を入念に行っておくことができれば、なんのトラブルもない満足のいくお別れをまっとうすることも可能です」

今回は、実際にあったケースをもとに、理想のお葬式を挙げた遺族の例を紹介していただきました。

お葬式
故人の希望をかなえ、お花でいっぱいのお葬式が実現
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「エンディングノート」のおかげで、お葬式当日にゆっくりお別れができたケース

英恵さんは、地方都市に住む50代の専業主婦。二世帯住宅を建て、80代になる母と同居していました。母は前向きな性格で、ガーデニングが趣味。同居する家の庭に立派な西洋庭園をつくり、近所の友人を呼んでお茶をすることを生きがいにしていました。

ある日、母にがんが発覚。もって余命1年だという宣告を受けました。最初はさすがの母も泣き暮れていたものの、「くよくよしても仕方がない」と思い直し、「最近近所にできた綺麗な公営斎場で、自宅の庭のようにお花に囲まれながら参列者とお別れをすること」を目標に終活を始めたい、と言い出しました。

英恵さんは「終活なんて縁起でもない」という思いもよぎりましたが、母らしい前向きさに感銘を受けて、せっかくならできるだけよい最期にしてあげたいと思い、母の終活を手伝うことに決めました。

といっても、具体的になにから始めればよいのかわからなかった英恵さん。ある日、とりあえず知っている所に聞いてみようと、生花でできた祭壇に定評のあるA葬儀社に相談の電話してみました。すると相談員から「エンディングノートはつけていますか? もしまだのようでしたら差し上げますよ」とすすめられ、お葬式の資料とともに取り寄せることに。

さっそく開くと、銀行口座や保険の情報、お葬式に呼びたい親族のリストといった、今までに考えたこともなかった項目がたくさん。英恵さんは「これだ!」と思い「お母さん、一緒にこれをつけましょう」と母に提案し、コツコツとつけていくことにしました。

お葬式

最初は母が自発的にノートを書き始めましたが、病状が進むにつれてペンを握る力が低下したり、記入すべき内容について思い出すのが大変に。

そこで途中からは英恵さんが代筆したり、代わりに調べたりしながら、数か月かけてなんとかノートを完成させました。

その後、生花祭壇の見栄えの打ち合わせをするためA葬儀社に足を運んだ英恵さん。予算が限られているため、突然の出費や追加料金はどうしても避けたいことを伝えました。A葬儀社は、すべて込みのパッケージプラン。夜間のご遺体搬送や安置といった追加料金がかかるケースが多い事態であってもパッケージの価格内で対応してくれることがわかり、英恵さんは安心して頼むことにしました。

●やがて別れが。悲しみのなか、故人の希望どおりの式に

そして、ノートが完成した翌月のある夜更け、英恵さんの母は容体が急変し、そのまま亡くなりました。深夜にA葬儀社に電話すると、電話に出たのは知らない声のスタッフでしたが、「必ず公営斎場でお式を挙げたいとおっしゃっていた方ですよね?」と事前の希望をふまえて、病院近くの遺体安置施設への搬送をスムーズに提案されました。

聞けば、英恵さんから何度か事前相談を受けていたため、A葬儀社内で認識が共有されていたとのこと。母が亡くなった瞬間から悲しみに押しつぶされそうだった英恵さんは、力強い支えを得たことで少し落ち着きを取り戻したのでした。

悲しみが深まるなかでお葬式の手配を始めようとした英恵さんでしたが、葬儀社にエンディングノートを見せながら事前相談していたため「お願いしていた内容で」とだけ伝え、細かい点もエンディングノートを見せただけでスムーズに準備が進みました。

参列者への連絡や関係各所への手続きも滞りなく進み、打ち合わせは最小限で済みました。「お葬式は遺族ほどゆっくりお別れできないものだ」と周囲から聞かされていたものの、母とのお別れの時間を心ゆくまで取ることができました。

お葬式

そして当日、希望していた公営斎場で、母が大好きだった花をふんだんに使用した生花祭壇によるお別れを実現した英恵さん。遠い親族から葬儀の進め方についてややこしい意見を言われることもありましたが、「母と生前に決めてありますから」と伝えるうちにそうした意見も消え、トラブルなく進行することができました。

葬儀には、自宅の庭からテーブルセットを持ち込んでもらい、母が生前大事につくっていた庭とそっくりな空間に。よく庭に遊びに来ていた参列者たちは、「お母さんが好きだったお庭があるなんてびっくり」「大好きなお庭に見送られて、お母さんも幸せね」と感動の涙。

「二人で準備をやりきったからこそ、思ったとおりのお見送りになったわ。お母さんありがとう」と、英恵さんはホッとしながら、心の中で母にお礼を伝えました。

お葬式についてよく話し合っておくことが、希望をかなえ、節約にも

お葬式に関するトラブルはよく噂になりますが、一方でうまくいった例はなかなか伝わってこないものです。
トラブルの原因となりがちなポイントと、英恵さんの対応がよかったポイントを比較してみましょう。

●お葬式でトラブルになりがちなポイント

(1)葬儀の依頼先を事前に決めていない

故人や遺族の希望に合ったお葬式を挙げたいと思っても、お亡くなりになった後から探し始めると、時間がたりません。お亡くなり後からご遺体を搬送するまでの数時間では、希望に合ったプランや価格帯の葬儀社を探しだせず、結果として高額な費用がかかってしまうことがあります。

(2)お葬式に関する情報の整理や意思決定ができていない

どこの葬儀社に頼むか、お金をどれくらいかけてだれが用意するのか、どんな演出のお葬式にするのか、どれくらい幅広く参列者を呼ぶか、といった前提を事前に意思決定していない場合、遺族や参列者の間で方針が合わずトラブルにになることがあります。

(3)お別れの時間が十分取れない

(1)や(2)が不十分だった結果として、葬儀社探しや打ち合わせ、遺族間の合意形成に時間を取られて、故人とゆっくりお別れする時間を設けることができず、あとで後悔が残る、というケースもよくあります。

●英恵さんのよかったポイント

(1)故人の希望のプランを事前に把握し、依頼先を絞り込んでいた

故人の希望を事前に把握し、理想を叶えられる葬儀の依頼先を探しておいたので、いざというときに、慌てることなくスムーズに葬儀を手配できました。

(2)エンディングノートを活用してお葬式に必要な情報を事前に整理し、意思決定していた

故人の遺志をはっきりさせ、遺族の間で合意を取りにくいことまで記入しておいたので、親族間の意見の食い違いによる不要なトラブルを回避することができました。

(3)故人とのお別れに十分時間をかけられた

お葬式を挙げるためには、葬儀社から葬儀プラン、会葬御礼の品に至るまで膨大な選択に迫られます。じつは遺族の方が多く時間を割かれるのは「選択」の時間。こうした時間を減らすことでお別れの時間を増やし、悔いの残らないお別れを行うことができました。

故人にとっても遺族にとっても、お葬式は一度きりの大切なお別れの場。トラブルや後悔は少しでも避けたいものです。縁起でもないとは言わず、葬儀社への事前の相談やエンディングノートの作成を行うことで、後悔のないお別れを行うことができます。慣れ親しんだ「平成」とお別れすることとなる2019年、自身や周囲のお別れを思って、情報の整理に取り組んでみませんか?