樹木に囲まれ隠れるようにひっそりとたたずむ、隠れ家のような高原の別荘を紹介します。建主は東京に住む60代の夫婦。自宅ではかなえられなかった、思いきったプランを実現したいと建築家の廣部剛司さんに設計を依頼しました。どこにいても森の存在を間近に感じられ、大きな本棚を中心に据えた建物は、まさに森の図書室。ここにしかない静かな時間が流れています。
すべての画像を見る(全16枚)美術館のような空間、ずっといても飽きない居心地
Yさんの別荘 静岡県 家族構成/夫60代 妻60代
設計/廣部剛司建築研究所
伊豆半島東部の高原地帯は深い森に囲まれ、温泉をはじめ豊かな海の幸、山の幸に恵まれた地域。何度もゴルフや温泉に訪れ、友人も住むこの地に土地を購入し家を建てたYさん。
「都内の自宅を建てたときにかなえられなかったプランを実現したいのと、自分の建てたい家のイメージをわがままに形にしてもらいたかった。自宅を新築したときの過程がとても楽しかったので、それをもう一度味わいたかったんですね」(Yさん)
今は別荘として使用していますが、ゆくゆくは東京と伊豆を行き来するための拠点となる、住処としても考えているのだとか。
設計を依頼した先は廣部剛司さん。光と影を巧みにあやつり、形にとらわれない自由な空間造形が特徴の建築家です。Yさんが廣部さんに伝えた要望はちょっと抽象的。
「森を切り開いて建てるのだから、それにふさわしい建物を。家というよりは美術館のような大きな空間で、ずっとそこにいても飽きない居心地のよさも。言葉で伝えられることには限界があるので、イメージブックをつくってお渡ししました。廣部さんはそれを汲み取って、提案してくれたと思います」(Yさん)
土地を検分した廣部さんは、うっそうと生い茂る森の中にある、ヒメシャラの大木の特別な存在感に気づき、この木を伐採せずに共存させる方法を模索しました。
その結果木の周りに弧を描くように建物を配置し、屋内は3つのリビング、キッチン、ダイニング、寝室、ゲストルーム、サニタリーなどで構成されています。
「室内から正対して庭を見るというより、いつも庭の景色が自分に寄り添っているように感じる空間を意識しました」(廣部さん)。RC打ち放しの壁は型枠に杉板を浮造りにしたうえで焼き加工を施したもの。硬質な素材に表情を与えています。