単体の「住宅改修」ではなく「エリアと向き合う」意識に
たかまつ:とても意義あるプロジェクトだと思う一方、心理的ハードルが高くないですか? だって大変ですよね。
白坂:大変です(笑)。空き家を探し、状況を調べて、改修方針を考えて工事。完成しても、買い手が見つからなければ、次の家に引っ越せないし。面倒なステップだらけで、正直、負担はあります。でも、同時に手応えは感じてます。
たかまつ:プロジェクト第1弾の住宅を昨年、売却されたんですよね。一巡を終えてみてどうですか?
白坂:建築家として独立し、実績をつくるうえで、なにかおもしろいことをしたいと思って始めたわけですが、多くの人と出会い、プロジェクトの可能性を指摘していただき、発想が広がりました。単体の「住宅改修」にとどまるのではなく、手がける案件を集約して「エリアと向き合う」という意識が生まれたのも変化のひとつです。ヨガ教室を週1で開催したり、イベントを行ったりしているのも、近隣で親しまれる場づくりを考えているからです。
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たかまつ:現在着手されている2軒目も、1軒目と同じエリアなんですか?
白坂:はい。近隣を歩き、空き家を見つけては登記を調べて所有者に直接交渉しました。10軒ほど家主さんにアタックして、ようやくひとり、プロジェクトに賛同してくれる家主さんと出会うことができました。活動を続けていくことで理解が広がり、周辺の空き家も手がけることができれば、エリア一体が面白くなっていくと思っています。
たかまつ:プロジェクトを進めていくうえで当然、課題もありますよね。
白坂:ひとつは家主さんの理解。そして、金融機関の理解ですね。じつは1軒目の買い主さんは住宅ローンが組めなかったんです。国の評価の仕組みが変わっても、慣習的にはまだ25年で資産価値はゼロになる。金融機関としては、将来、売却するとなったとき、その値段で売れる保証はなく、融資基準は変えられない、と。金融機関はリスクの低い判断をせざるを得ない、ということでした。
たかまつ:お金を貸す金融機関側の立場も理解できる気がします。
白坂:卵が先か鶏が先か、ですよね。中古住宅の売買件数は増えていますが、僕の取り組みも慣習を変えるきっかけのひとつになればいいと思っています。
たかまつ:私自身、今はまだ「自分の家を持つ」ことに高いハードルを感じるんです。結婚や出産、育児、親の介護など先々、わからないですから。ただ、だからこそ、そのときどきに合った家を選べる、家を持つことや住み替えることが気軽にできるといいですよね。
白坂:日本では「家は一生に一度の大きな買い物」という考え方がまだまだ多数派です。でも、働き方の多様化にともない暮らし方も多様化し、そして家も多様化していくはず。「古い家を使っていく」という価値観が一般的になれば選択肢は広がっていくと思います。