ヤドカリのように住まいを替えながら、古い住宅を再生させる。空き家問題への新たなアプローチとして、一級建築士の白坂隆之介さんが手がける「ヤドカリプロジェクト」が注目を集めています。時事YouTuberのたかまつななさんが、「家」を未来へつなぐプロジェクトの可能性について聞きました。

一級建築士の白坂隆之介さんと時事YouTuberのたかまつななさん
一級建築士の白坂隆之介さん(左)と時事YouTuberのたかまつななさん(右)
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使い捨てられる木造住宅を価値ある住宅に再生する

がんばり坂の家
プロジェクト第1弾は急な坂の中腹に立つ築58年の「がんばり坂の家」。改修により劣化対策評価は等級3を取得、耐用年数はおおよそ75年になった

たかまつ:空き家を改修して自宅にしつつ、買い手が現れたら売却し、次の空き家を購入し改修する…という白坂さんの「ヤドカリプロジェクト」。とてもユニークな取り組みですね。

白坂:よくある中古住宅のリフォーム販売は、安い家を探し、見栄えよく仕上げて市場に戻して利益を上げるという仕組みで、構造体は二の次ということもあります。でも僕がこだわっているのは建築の長寿命化です。床下や屋根裏を確認し、比較的健全な住宅を選び、仕上げをはがして骨組みの状態をすべて確認しながら改修しています。

たかまつ:柱と梁だけにしてから、改修していくんですね。

白坂:通常、木造住宅は築25年前後で資産としての評価がゼロになります。でも、劣化部分すべてを補修・解消して、耐震基準や省エネ性能などを満たせば、家が長もちして資産価値が持続する。安全で安心して住める家、価値ある家になり、適切な価格で市場に戻すことができる。住み替えやすくなり、「家を買ったら一生住み続ける」という制約から、住まい手を解放できます。

たかまつ:私は今、日本とイギリスの2拠点生活をしているのですが、イギリスでは中古住宅がむしろ人気です。一方、日本は新築が好まれます。

白坂:日本の税制や住宅の価格査定は、「木造住宅は約25年で使い捨て」という前提なんです。

たかまつ:法律による規制がネックになっているということですか?

白坂:法律というより税制ですね。税制上、木造住宅の耐用年数は24年なんです。慣習としてもそれを反映して、20〜25年たつと家の資産価値はゼロになる。売ってもお金にならないから、壊して建て替える人が多く、税制はそれを反映するので耐用年数が延びない…という悪循環に陥っているのです。ただ、住宅の資産価値の損失は全国で540兆円ともいわれ、国家的損失です。国も見直しを始め、2014年に中古住宅の評価方法を改定。築年数だけで評価するのではなく、維持管理され補修された家は資産価値を正しく評価できるようになりました。

たかまつ:では、改修した家を白坂さんご自身が、自宅や事務所として使用するのはどうしてですか。

白坂:住宅ローンや補助金や免税制度を使えるというメリットもありますが、経済的理由のためだけではありません。あくまで「自分の家」として改修することで、デザインの主体性が担保できる。デザインをするうえで主体性はとても大切です。また、自邸のみを対象とすることでプロジェクトが着実なものになります。

たかまつ:白坂さんのお仕事は、新築とリノベーションとどちらが多いのでしょう。

白坂:新築も手がけますが、リノベが多いですね。でも、家がリレーのバトンだとしたら、新築は第一走者で、空き家のリノベーションは第二走者、第三走者。その程度の違いで、未来へどう家を引き継ぐのか? という思いは同じです。