近年、葬儀の現場で「お葬式を二重に手配してしまう」というトラブルが増えています。

「お葬式の二重手配はキャンセル料などの余計な出費が増えるほか、家族間の不要なトラブルも引き起こします」と語るのは、葬儀関連サービス企業でPRを務める高田綾佳さん。

今回は、実際に起きたよくある事例をもとに、お葬式の二重手配トラブルに陥ってしまったパターンをご紹介します。

葬儀トラブル
お葬式には思ってもみない費用がかかることも
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亡父の積立金を発見。葬儀社と互助会のWブッキングで赤字に

直美さん(仮名)は、50代の専業主婦。地方都市に生まれた一人っ子で、結婚を機に都心に引っ越しました。数年前に80代の父が病気で倒れて実家近くの病院に入院してからは、月に1度は実家に帰るようにしています。

しかし、直美さん一人でお見舞いに来ていたとある夜、父の容体が急変し、帰らぬ人に。
実家の70代の母に連絡しましたが、看病疲れで憔悴していた母は「いったんその場はお願い」とのこと。そこで直美さんが葬儀の手配をすることになりました。

病院から遺体を早く搬出するよう迫られるなか、直美さんはまず病院に常駐していたA葬儀社の人に遺体の安置を依頼することに。
地域で名の知れたA葬儀社にそのまま依頼しようと考えた直美さんは、軽くその後の打ち合わせを行ってから帰宅し、母に「病院にいたA葬儀社さんにお願いすることにしたわ」と伝えて眠りました。

●互助会の積立金の存在を知った直美さん。一度申し込んだ葬儀をキャンセルするも…

ところが翌朝、母はふとなにかを思い出した様子で家の引き出しを探し、一枚の書類を出してきました。それはB互助会に加入していることを示す証書。

じつは父は、娘の直美さんにお葬式の費用を払わせるのは悪いと思い、B互助会にお金を積み立てていたのです。
互助会は、お葬式や結婚式などの費用を積み立てる会員制度。家族を思う父の気持ちを感じた直美さんは、遺体の安置をお願いしているA葬儀社に父の遺体の返還と、葬儀のキャンセルの連絡をしました。

するとA葬儀社は、「すでに搬送費用などがかかっているので困る。キャンセル料を支払ってもらえなければ、ご遺体も動かせません」と20万円を請求。
遺体を返還してもらわなければお葬式もままならないと焦った直美さんは、父の預金口座がある銀行に事情を説明して、20万円を用立てました。

ただし、その銀行のルールは「故人の口座から親族が葬儀を目的としてお金を引き出せるのは一度きり。それ以降は相続分配が決定するまで凍結」というもの。
その20万円を引き出したあとはしばらく使えなくなってしまいました。

葬儀トラブル

とはいえ、父が互助会に葬儀費用を積み立てているということで、お金に関しては楽観視していた直美さん。余計に引き出すようなことはせず、20万円を葬儀社に支払ってA葬儀社をキャンセルしました。

●積立金がたりない!父の希望をかなえるため、金策に走り回ることに

父の遺体を互助会に預け直したなおみさんは、父が指定していた150万円のプランで葬儀を行うことに。すると、B互助会の請求書には「ご請求金額 100万円」の文字が。
じつは父は50万円の積立コースに入っており、プランの全額を積み立てていたわけではなかったのです。

直美さんも母も専業主婦なので、自由に使えるお金はほとんどなく、父の銀行口座も、故人口座の凍結ルールで利用できません。
それでも父の遺志を最後まで尊重したいと考えた直美さんは、たりない費用はお香典でまかなうつもりで、150万円のプランで互助会に依頼することに。

ところが高齢だった父の周辺はほとんど亡くなっており、参列者の数は予想を下回ってしまいました。
受け取ったお香典の計算をしたところ、直美さんと母の手持ちのお金をすべて加えたとしても、支払金額には50万円ほど不足する事態に。お香典の相場を高めに見積もっていた直美さんの当ては大きく外れてしまいました。

支払いの期日が葬儀終了後3日に迫るなか、父とゆっくりお別れすることもかなわず、直美さんは金策に走る羽目に。
「もっとしっかりいろいろなことを確認しておけばよかった…」と後悔することになってしまいました。

離れて暮らす親子や親族。お葬式の二重手配を避けるためにできることとは

直美さんのケース、いかがだったでしょうか。今回は以下のようなポイントが問題点と言えます。

【問題点】
(1)遺族が故人の遺志を知らずに別の葬儀社を手配してしまった
(2)互助会の仕組みや故人の積立状況を調べていなかった
(3)言われるがままキャンセル料を支払ったため、あとの手続きが面倒に

昔は何世代にも渡って同じ土地に住み、またお葬式をお願いするのは菩提寺が多かったことから、こういった問題はあまり起こりませんでした。
しかし近年は核家族化で親子が離れて過ごすケースが増えているため、直美さんのようなケースが増加していると考えられます。

●互助会や積立金についてきちんと仕組みを知っておく

こうしたトラブルを避けるためには、どのような解決方法があるでしょうか。

【解決方法】
(1)葬儀に関わる人たちに相談したうえで手配しよう

慌てて依頼するのではなく、故人と密接だった親族などに「故人からなにか聞いているか」を確認することで、二重で手配するリスクは格段に減少します。

(2)互助会の仕組みを知っておこう

おもに地方部でよく見られる「互助会」システムを持つ葬儀社。数年にわたり積立金を支払っておくことで、いざというときに遺族の負担を軽くできるシステムです。
積立金が施設の修繕などにあてられることで、将来的にその施設を利用する人たちがお互いの積立によって恩恵を得られるというメリットもあります。

一方で、積立金だけでは葬儀を挙げられない場合がほとんどであることが、あまり知られていないという側面も。積み立てた本人が全額積み立てているものだと勘違いして周囲の人々に伝えてしまうケースもあるようです。
互助会に依頼する場合、見積もりをしっかりとって必要な金額を確認することが重要です。

(3)必要以上のキャンセル料ではないか確認する

誤って二重手配してしまった場合、どちらかをキャンセルする必要があります。しかし、キャンセルした葬儀社からあまりに法外なキャンセル料を請求された際は、消費者センターに相談するのも手。
支払うのが妥当な金額なのか、一度親族同士で確認することをおすすめします。

よかれと思ってやったことが裏目に出てしまったがために、発生することの多い葬儀の二重手配。じつは、根底に情報の共有不足という問題がひそんでいます。
「不謹慎かもしれない」という思い込みをやめ、事前に親族同士で話をしておくだけで、こうしたトラブルは起きづらくなります。

大事な人をゆっくり見送るために本当に必要なことを考えて、家族で準備を始めてみるのはいかがでしょうか。