「犬」と家族の日々をつづる「inubot回覧板」を連載中の写真家・北田瑞絵さん。北田さんにとってinubotで紹介している犬は、暮らしの中に光を灯してくれるような存在で日々たくさんの歓びを与えてくれますが、同時に犬にまつわる悩みや心配事も生じます。この「まほろば写真館」では、動物とともに生きている方からお話を聞いて、動物との日常の中で大切にしている想いを教えていただきます。
看板猫と過ごす。『カフェ アルル』のマスター根本さんの日常
すべての画像を見る(全21枚)第3回目は、新宿三丁目の喫茶店「カフェ アルル」のマスター・根本治さんにお話を伺いました。
●お店に入る前からかわいい猫が出迎えてくれる
和歌山から新宿に飛んできました、猫に会うために。そして辿り着いたのは新宿三丁目にあるカフェアルル。遠目でも分かるすてきな門構えに引き寄せられるように店前に来たら、なんとベンチにもういらっしゃるではないですか。
この子の名前は“次郎長”。「初めまして、こんにちは」と次郎長と目が合うようにしゃがみ「失礼してよろしいですか?」と腕を伸ばした。
日頃あまり猫と触れ合う機会がなく、うちでは柴犬の成犬と暮らしているので、「…猫ってこんな…こんな華奢なんか」とまず驚愕。そして即やみつき。
そして店内に入ると、「いらっしゃいませ」と穏やかに迎えてくれた根本さん。
アルルは1978年創業の老舗純喫茶。そして現在アルルを住処にしている猫が次郎長と石松。
●お客さんがつないでくれた出会い
次郎長と石松がやってくる前に、五右衛門という先代猫がいた。根本さんは「五右衛門を看取ってから猫と暮らすのはもう終わりかなぁ」と思ったそうだ。
だけどお客さんに保護猫ボランティアの活動をされている方がいて、「五右衛門にそっくりな子がいるから引き取ってもらえないか」とお願いされたのが次郎長だった。
そのときに次郎長が石松をかわいがっているから片割れだけではなく一緒に…という話で根本さんがふたりの里親になったのだ。離れ離れにならなくてよかった。
次郎長は石松よりも4歳年上で、換毛期なんかは石松の毛繕いを次郎長が行うらしい。
落ち着いた暖色の照明の店内は根本さんが収集したたくさんの骨董品や美術品が飾られている。「よく猫に悪戯されないなって思います」と根本さんは笑っていたが、たしかに猫がいる家庭は猫の手が届く場所には物を置かないイメージがある。
「来た当初から悪戯しないですね。それでいうと五右衛門がトイレをしていたところを指して“君たちのトイレはここだよ”と言うとその場で覚えたんですよね。僕はそれがいちばん驚きましたね」と、振り返る。
不思議な出来事だけど、次郎長と石松はどこかで根本さんの言葉を察したのだろう。動物と生きていたら、おとぎ話のような不思議な出来事がときに現実として起こるのだ。