お葬式の際に、参列者が遺族に対して弔意と助け合いの気持ちを表すために用いられる「香典」。いくら包めばよいのかわからず、お葬式の参列前に慌てて相場を確認した経験をもつ方は多いのではないでしょうか。
「一方で、香典をいただく側の遺族も、お返しの方法に悩んでいます。知識不足がきっかけでマナーを欠いた行動をとってしまった結果、トラブルになるケースも」と語るのは、葬儀関連サービス企業でPRを務める高田綾佳さん。
今回はありがちなトラブル例をもとに、香典返しの方法を知らなかったことで親族とうまくいかなくなってしまったケースをご紹介します。
高価な香典をもらったら2回お返しが必要だった!?葬儀にまつわる親族トラブル
響子さんは、地方都市に住む40代の専業主婦。この5年、多額の医療費がかかる難病を患った70代の義父を看病し続けていました。
しかし治療のかいなく義父は死去。義母は憔悴しきっていて喪主を務められる状況ではなく、長男である響子さんの夫を喪主としてお葬式を行うことになりました。
義父は友人が多く、多くの見舞客がひっきりなしに病室に訪れる人気者でした。さらに、7人きょうだいの長男なので大勢の親族がいます。葬儀の参列者数はかなり多くなることが予想されました。
響子さん夫婦が葬儀社の担当社員にその旨を伝えると、担当社員は「大勢の方の香典額を考慮して香典返しを考えるのは大変だと思うので、当日返しがいいですね」と進言してくれました。
響子さんと夫は、香典返しは忌明けに行うものとばかり考えていましたが、一般的になりつつある方法だという担当社員の話を信じ、当日に渡すことにしました。
葬儀の当日は予想通り多くの親族や友人が弔問に訪れ、接待でてんてこ舞いとなってしまった響子さん。その後も四十九日法要やお仏壇・お墓の手配、相続や遺品整理のことなど考えることが多く、慌ただしく一年を過ごしました。
●一周忌の連絡をするも親族から冷たい返答が…
そんなある日、菩提寺から「一周忌の時期が近づいているが、どうするか」という連絡が。参加人数を確定させるため、過去の法要に参列してくれた親族を中心に電話連絡を始めました。
しかし、親族たちはなんだか少しよそよそしい雰囲気で、「行けたら行く」「まだ予定がわからなくて…」などと言葉を濁されます。
とくに心当たりがなく不思議に思った響子さんは、予定が合わないと断られた義父の妹に「四十九日に来てくれた親族すら答えがあいまい。なぜ?」と漏らしました。すると、「だってあなたたち、返礼品を渡していないでしょう」とうんざりした様子で指摘されたのです。
当日の香典返しですっかりすべて終えた気になっていた響子さん。腑に落ちないながらも謝罪しに行くと、「私たちがいったいいくら包んだと思っているの? 当日のお返しはまったくたりないでしょう」とあきれながら伝えられました。
●相場より多い香典には、あらためて香典返しが必要だった!
聞けば、兄弟姉妹が包む香典の相場が5万円であるところ、闘病が大変だったことに気をつかって、きょうだいで示し合わせて全員が9万円を包んだとのこと。葬儀の際に渡した香典返しは3000円ほどの高級緑茶のつめ合わせ。とても見合っているとは言えません。
響子さんは、高額な香典をいただいた方には追加で香典返しを送らなければならないことに、そのとき初めて気づいたのです。
しかも、義父の妹はほかの親族に「あそこはろくに香典返しもできない失礼な家。兄さんの息子はぼんくらで、その嫁は気をつかえない」などの陰口を流していた様子。響子さんは謝罪と弁明を一刻も早く行いたい気持ちに駆られました。
家に帰って慌てて香典帳を確認すると、義父のきょうだいのみならず、ほかの親族たちも相場よりかなり多く包んでくれていたことがわかりました。
また、多くの友人たちも相場より高い金額の香典を包んでくれており、計算してみた結果、追加の香典返しは総額20万円近くにおよびます。
響子さんは葬儀を手配してくれた葬儀社に「香典の当日返しに追加が必要だなんて聞いていない」と抗議をしましたが、「きちんとご説明申し上げました」とのこと。
葬儀社から受け取った喪主向けガイドラインに目を通すと、確かに香典当日返しの部分に「高額な香典をもらった場合は、お客様が後日お返しをしてください」という一文があり、マーカーが引かれていました。
確かに響子さんと夫は説明を受けていた様子ですが、ふたりともあまりの慌ただしさにすっかり頭から抜け落ちていたのでした。
義父の医療費で貯金を使いつくし、葬儀代金を支払ったあとに残った香典で仏壇などを買い求めたため、手元に使えるお金がほぼ残っていない響子さん一家。これから一周忌のお布施を菩提寺に払う予定もあり、20万円は家計に大きな負担です。
とはいえ、追加の香典返しをしないことには親族たちも来てくれそうにありません。どちらを優先すべきなのか、響子さんは頭を悩ませています。
香典のルールは複雑!事前に調べてトラブルを回避しよう
響子さんのケース、いかがだったでしょうか。
【問題点】
(1)香典の当日返しのルールを知らないまま受け入れてしまった (2)香典の使い道を遺族で共有せず、勝手に使用してしまった
もともと香典に対する知識をもたないまま、当日返しを選択した響子さん。このようなケースに陥らないためにはどのようにすればよかったのでしょうか。
【解決】
(1)香典のルールを知ろう
まずは香典のルールを知って、トラブルを未然に防ぎましょう。
香典返しの方法は大きく2種類。「忌明け返し」と「当日返し」があります。
・忌明け返し
四十九日後にお返しする一般的な方法で、受け取った香典の半額(世帯主の場合、1/3)にあたる金額の品物をお返しします。
・当日返し
即日返しとも呼ばれる、ある一定額の香典返しを葬儀当日に参列者に渡す方法です。
1万円以上の高額な香典を受け取った場合、さらにお返しが必要。香典の半額もしくは1/3から、さらに当日返しの品物にかかった代金を差し引いた金額の品物をあらためてお返しします。
(たとえば香典が1万円、当日返しが3000円なら、半額返しであれば2000円相当の品物。少額となった場合は葬家判断で無理にお返しする必要はありません)
なお、「会葬御礼」(清めの塩と1000円程度の少額の品物)は、別途お渡しするものなので注意が必要です。
(2)香典辞退という手も
身内中心の葬儀で気兼ねせずお別れしたい、小規模葬なので香典がなくても葬儀代金がまかなえる、などの理由で「香典辞退」を選択する方が近年都心を中心に増えています。
その際は事前に参列者や勤務先に「香典辞退」の意思を伝え、トラブルがないようにしましょう。
(3)香典の使い方は親族に相談
香典は参列者からのお気持ちである一方で、お返しを準備する必要があるもの。簡単に全額使えるものではないと考えましょう。
また、香典の使い方に悩んだ場合は、周囲の親族に相談してみるのも手です。
香典は参列者からの温かい気持ちであるため、お返しにはきちんと敬意を払いたいもの。あらかじめルールとマナーを知っておき、自身の家庭の事情と照らし合わせながら香典とのつき合い方を考えることで、参列者に失礼なく対応できます。
このような知識を事前に得ることは、いざというときに落ち着いて対処するための糧となります。
「不謹慎なのでは」と思わず、気になったときに調べてみるなど少しずつアクションを起こしてみませんか?
※お香典の風習は地域によって違いがあるため、万が一の際は依頼する葬儀社にご相談ください