最近雑誌や新聞で取り上げられることが増えてきた「墓じまい」。遺骨を移動させるために現在のお墓を更地に戻すことを言い、別のお墓にお引越しさせることまで含めて「改葬」と呼ばれることもあります。

「実家のある地方に建っていたお墓を閉じて居住地域近くに建て直したり、閉じたお墓から取り出した遺骨を永代供養墓に納める動きが広がっています。しかし、必要な手続きやコツはあまり知られておらず、場合によっては問題が発生する場合も」と語るのは、葬儀関連サービス企業でPRを務める高田綾佳さん。

今回は、ありがちなトラブル例をもとに、墓じまいを試みて問題が起こってしまったケースを紹介します。

お墓を引っ越すのに大金が必要って、知っていましたか?
お墓を閉じるのにもお金が必要なこと、ご存知でしたか?
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実家近くの墓を離檀と墓じまい。それが思わぬトラブルに…

美咲さんは、九州地方出身・首都圏在住の50代の会社員。父の逝去後、母を首都圏の老人ホームに呼び寄せ、弟と交代で見舞っていました。

そんな母も逝去。弟と話し合った結果、葬儀を首都圏であげることにしました。
その理由は、九州に住む親族がほぼいないこと、そして父の葬儀での苦い経験があるからです。

美咲さんの父は九州で亡くなったため、実家近くにある菩提寺に葬儀読経と戒名授与を依頼しました。その際、父の人柄が反映されていない戒名を授与したうえ、お布施を渡したあとせかせかと忙しそうに帰っていった住職に対し、姉弟そろって不信感を抱いていたのです。

それでも一応連絡はしなければと、菩提寺の住職に母が逝去したこと、葬儀を首都圏であげることを伝えたところ、「関東まで行くと人手不足のためお寺が空になる。行くことができない」という答えが。

事情を説明して僧侶手配サービスに連絡し、やってきたお坊さんと事前打ち合わせをしっかり行い、よい法話と納得できる戒名を授けてもらった美咲さんと弟。
安心するとともに「きっともう菩提寺はお世話にならないだろう」と考え、菩提寺に残したお墓を墓じまいして首都圏に移すことにしました。

そこで美咲さんが調べて見つけたのは、駅近くに最近完成した機械式納骨堂。「行きたいときに自分のペースで母のお参りができる」と気に入りました。
宗派不問で、入会費と年会費も手ごろ。弟も費用感や綺麗な内観を気に入り、美咲さんを中心に話を進めていくことになりました。

●菩提寺の住職からお怒りの電話が!高額の離檀料に弟も逃げ腰に

さっそく希望の納骨堂を抑えた美咲さんは、菩提寺に改葬に必要な書類(※1)を送りました。お墓を閉じるためには、改葬許可申請書の埋葬証明欄に記入と捺印をもらう必要があります(※2)。
ところが、それを受け取った菩提寺の住職から「突然こんなものを送ってくるとはなにごとだ」と激怒の電話がかかってきました。

※1:改葬に必要な書類=墓地所在地の自治体が発行した「改葬許可申請書」に自身が記入したとものと、既存の墓地が発行する「埋蔵証明(自治体などが運営する墓地の場合は埋葬証明)」、受け入れ先の墓地が発行する「受入証明」の3点を、既存の墓地所在地の自治体に提出することで「改葬許可書」が発行される。受け入れ先の墓地にこの改葬許可書を提出することで正式に墓じまいすることが可能となる。

※2:移転元の墓地管理者に、改葬許可申請書の埋葬証明欄に記入と捺印をもらう。改葬許可申請書・埋蔵証明・受入証明が1枚の書式にまとまっている自治体もある。

お墓

事務的に送ってしまった非礼を詫びながらも、九州とは地縁がなくなってしまったことを理由に離檀(檀家と菩提寺としての関係を終わらせること)と墓じまいをお願いしましたが、住職の怒りは収まりません。

埋葬証明欄を埋められない可能性を感じて「墓じまいを諦めることも視野に入れないといけない」と考えた美咲さんは、代替案として、住職に別のお坊さんに戒名を授けてもらったことを伝えたうえで、今のお墓に納骨してもらうことはできるのかを尋ねました。

すると、「別のお寺のお坊さんに授与された戒名は、うちの寺の過去帳(※3)に載せることはできない。戒名をつけ直してもらうことになる」との回答。戒名のつけ直しには50万円、離檀するならば100万円かかると伝えられたのです。

※3:過去帳=故人の戒名を始めとした宗教上の記録を残すための帳簿。菩提寺が檀家の記録を残すためのものと、檀家が各自で記録するものがある

困った美咲さんは、弟にどちらの方策を取ればよいか相談しました。すると、弟は「そんなにお金がかかるなんて聞いていない!」と困惑。聞けば、お金があまりかからない方法だと思って賛成したとのこと。

「こうなったのは下調べをしなかったお姉さんのせいだし、自分はあんまりお金を出さないよ」とまで言い出したのです。八方ふさがりになった美咲さんは、どうすべきか頭を抱えています。

菩提寺に筋を通し、墓じまいのデメリットも把握しておこう

美咲さんのケース、いかがだったでしょうか。
今回のトラブルの特徴は、以下の3つです。

<墓じまいをめぐる今回の問題点>
1.姉弟でお墓に求めるものを共有できていなかった
2.菩提寺に無断で法要を依頼し、退路を断ってしまった
3.お墓を移動させることのメリット・デメリットを精査する前に、書類手続きを始めてしまった

最近注目され始めた「墓じまい」ですが、その実態はあまり知られておらず、難しい対処に迫られてしまう場合もあるようです。美咲さんのようなケースに陥らないためにはどうすればよいでしょうか。

<こうすればよかった!解決法>
1.お墓がその地域にあることが大事なのか、お参りしてもらうことが大事なのか、家族間で確認する

地方にお墓を所有する都心在住の方が墓じまいを検討する要因としては、
・きちんとお墓参りすることが難しい
・別の地域に住む親族が多く、長く維持することが難しい
などがあげられます。
お墓はその一家全体の持ち物ですので、今後のあり方をきちんと相談してみましょう。

2.墓じまいは菩提寺に筋を通そう

菩提寺が管理する墓地にある墓じまいを検討する方の多くは、菩提寺と関係性が薄いようです。とはいえ、一家のお墓を長年守ってきたのは菩提寺であることも事実。
今回のケースのようにお寺が離檀料を請求してくる場合もありますが、僧侶手配サービスを利用する際や墓じまいの手続きを本格的に進める前にきちんと筋を通すことで、離檀料の額を抑えられる場合もあるようです。菩提寺に対して御礼とお詫びをしてから手続きに入りましょう。

3.墓じまいのメリット・デメリットを精査しよう

墓じまいは、家族がよりご先祖様を供養しやすくなるという大きなメリットがあります。
一方で、自治体や墓地管理者とのやり取りが必要な手続きが煩雑で、選択肢によっては多額の資金がかかるというデメリットも。
よりよい選択ができるよう、メリット・デメリットについて調査したうえで話し合ってみましょう。

お墓は自身のルーツをたどり、ご先祖様を偲ぶことができる数少ない場所。
お参りしやすい場所にあればうれしいですが、改葬作業は一筋縄ではいかない場合もあります。

家族に合ったお墓参りのスタイルを考えた結果、墓じまいが選択肢に入った場合は、上手に手続きを進めて、だれもが安心してお参りできる環境をつくってみてはいかがでしょうか?