新築やリフォームでキッチンをつくる際、造作キッチンという方法があります。オリジナルで設計してつくる方法なので自由度は高いですが「いわゆる、システムキッチンやオーダーキッチンとの違い」が、よくわからないという人もいるでしょう。そんな造作キッチンについて、一級建築士の新井崇文さんが解説。自身の設計した事例を交えて、特徴とメリットを紹介します。
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造作キッチンとは?
キッチンにはさまざまなつくり方があり、表現や名称もいろいろです。ここでは私なりの切り口で、下記のように3つに分類しました。
1.システムキッチン
・住宅設備メーカーが販売しているキッチン製品
・決められたバリエーションのなかから形・サイズ・素材・色・設備器具・オプション品などを選び、組み合わせていく
・価格は安価から高価まで幅広い
・メーカーの担当者が図面を取りまとめる
2.オーダーキッチン
・キッチンメーカーや家具メーカーが販売しているキッチン製品
・自由設計に近い感覚で、かなり幅広いバリエーションから、形・サイズ・素材・色・設備器具・オプション品などを選び、組み合わせることができる。ただし、メーカーがラインナップしているものから選ぶ必要があるので、造作キッチンよりは自由度が低い場合あり
・価格は基本的に高価
・メーカーの担当者が設計し、図面を取りまとめる。ただし、メーカーの方針(仕様・形状)の範囲内での設計となるため、造作キッチンよりは自由度が低い場合あり
3.造作キッチン
・大工・建具屋などの工事を、工務店が取りまとめてつくるキッチン
・個別にイチから設計するので、形・サイズの自由度が高く、素材・色・設備器具も一般に流通しているものから自由に選べる
・価格は安価から高価まで幅広い。「形状をシンプルにする」「建具の数を抑える」などのポイントを押さえれば、比較的安価につくることができる
・設計事務所や工務店などの建築設計者が設計し、図面を取りまとめる。
・現場製作・手づくり的な部分が多い。そのため、「システムキッチン」や「オーダーキッチン」のような工場製作の製品精度を求める人には向かないことも
ここからは、上記のうち筆者が採用することの多い「造作キッチン」について、あるお宅の事例を見ながら、特徴やメリットを部位ごとに、紹介していきます。
造作キッチンの「キッチン本体」を解説
シンク・コンロや食洗器を備えたキッチン本体は、板材を箱状に組んだ収納家具の上に、ステンレスや人工大理石の天板を載せてつくります。
天板の素材はさまざまですが、ステンレスと人工大理石が一般的です。ステンレスは傷つきにくく清掃しやすい点が。一方、人工大理石は、内装と調和しやすい色合いを選べる点がメリットです(写真の事例はステンレス)。
こちらの事例の場合、シンク下はオープンスペースとしてゴミ箱を設置しました。一般的なシステムキッチンだと、シンク下は引き出し収納などになっていて、オープンスペースにできないことが多いです。
一方、造作キッチンなら自由な形状やサイズでつくることができます。生ゴミ、燃えるゴミ、プラスチックゴミ、ビン、缶ゴミなど、大半のゴミはシンク回りで発生しますので、シンク直下にゴミ箱があるのは、使い勝手がよいのです。
このお宅では、シンク下のオープンスペース右側に、包丁差しを設置しました。事前に、キッチンで動作や使い方について、住まい手とは入念に打合せ済。こうした詳細の設計を詰めています。
食洗器はシンクの脇のカウンター下に設置しました。海外製の食洗機は機器サイズが大きく、システムキッチンでは、寸法的に入れづらい場合もあります。でも、造作キッチンであれば、カウンター高さも幅も自在に設定できますので、お好みの食洗機を導入できます。
食洗機を使う際、その動作は「シンクで軽く水洗いしてから、食洗機に入れる」という流れに。そのため、食洗器はシンク脇に設置するのが一般的です。
このお宅では、シンクの対面側に、引き違い戸つきの収納棚を設けました。
この収納棚には、おもにダイニングで使う書類や雑貨を収納しています。キッチンのみならず、その周りのスペースに必要な収納も含めて計画できることも、造作キッチンのメリットです。
コンロ下は鍋やフライパンの収納スペースとしました。「乾かしながら収納したい」という要望から、引き出し上部をオープンにして通気性を確保しています。
引き出しを開けると、市販のフライパンスタンドが設置されていて、出し入れしやすくなっています。引き出し上部にはパイプ棚を設け、まな板やラップが置けるスペースとしています。
コンロ脇の縦長のスペースには引き出しを設け、調味料を収納しています。
そのほかのカウンター下スペースは、引き出し収納としています。シンクやコンロのあるキッチン本体は、奥行が650㎜と深いため、棚収納だと奥が出し入れしづらくなってしまいます。でも、引き出し収納であれば奥まで出し入れしやすく、普段使いのものを入れることができます。
扉つきの棚収納と比べて、引き出し収納のほうがコストはやや上がります。ただ、ここはお金をかけても使いやすさを重視したい部分です。
上段は浅型にして調味料やカトラリーなどを収納できるように。
中段も同じく浅型にしてランチョンマット、布類、ゴミ袋などを収納。
下段は深型にしてボウル、ザル、ラップ類、そのほか調理器具を入れられる仕組みに。
これら引き出し収納についても「どの引き出しに、なにを入れるか」を設計時に住まい手と入念に打合せ済。手持ちのもののサイズもチェックしつつ、各棚の寸法を決めています。
まるで服をあつらえるように、キッチンを自分にピッタリのものにできる自由度の高さも、造作収納のメリットです。