生きていると避けられないパートナーの死。自分の親がそれに直面したとき、子どもとしてなにができるのでしょうか。
ESSE読者から寄せられたお悩みに、漫画家・エッセイストの瀧波ユカリさんが答えてくれました。

父の死で性格が暗くなった母が、心配でたまらない…娘にできることは?

イラスト鍵ガチャン
父の死で性格が暗くなった母が、心配でたまらない
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今年の初めに父(73歳)が急逝してから、母(75歳)が悲しみのあまり人が変わったようになってしまいました。「私はもう1人で生きていくから、放っておいて」と言うなど、卑屈で自暴自棄な態度や発言を繰り返すので、姉も私もほとほと困っています。
父が健在の頃は、帰省のたびに手料理を用意してくれ、歓迎してくれていたのですが、今は「来られるだけで迷惑」という態度を取られてしまいます。以前の明るくて元気な母に戻る日は来るのか、心配です。
Mさん(東京都・48歳、夫53歳、長男25歳、二男22歳、三男19歳)

●「パートナーを亡くした悲しみと孤独」は比べようがないもの

お父様を亡くされて、Mさんもとても悲しい思いをされたことでしょう。しかし、Mさんが感じた「親を亡くした悲しみ」と、お母様が感じた「パートナーを亡くした悲しみ」は、まったく別のものとして捉える必要があると思います。

もう15年前になりますが、私の父が亡くなったあとの母も、同じように卑屈になったり攻撃的になったりしました。今思うとあの頃の母は私の想像以上に悲しみ、傷つき、不安に支配されていました。
数十年をともにしたパートナーがいなくなることは、生活のなにもかもが変わることを意味します。大切にしていたなにげない日常がごっそり失われ、なす術もなく、この先に穏やかな日々があるのかもわからない。母は表向きは気丈に振る舞っていましたが、半年ほどで一気にやつれてしまいました。きっとだれも見ていないところでは激しく落ち込んでいたのでしょう。

数年後に子どもを連れ帰省したときには、「どうしてあなたたちはうまくいっているのに、私は…」と絞り出すように言ったこともありました。当時はびっくりしましたが、今はかわいそうに思います。家族ですらねたましく感じてしまうとは、母はどれほどの孤独と苦しみを感じていたのだろうと。

●必要なのはグリーフケアかもしれない

Mさんのお母様も、きっとそんな苦しみのなかにいるのではないでしょうか? 悲しみや不安が大きすぎて、家族の愛情を受け取れる状態ではない。もしそうだとしたら、お母様に必要なのは「グリーフケア」なのかもしれません。

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離れて暮らしている以上、できることは限られます。お母様も高齢である以上、残された時間も限られています。「以前の明るくて元気な母」には戻れないかもしれません。大事なのは以前の状態に戻ることではなく、不安や苦しみから少しでも解放されること。そのためにできることを、Mさん含め周囲の人たちがひとつでも多く見つけられるといいですね。応援しています!

【瀧波ユカリさん】

1980年、北海道生まれ。漫画家、エッセイスト。アニメ化もされた『臨死!! 江古田ちゃん』(講談社刊)でデビュー。著書に『

30と40のあいだ

』(幻冬舎刊)『

ありがとうって言えたなら

』(文藝春秋刊)など