20代ほどがむしゃらじゃない、30代ほどノリノリじゃない――それが40代。
「そんな40代こそ、じつは『積極的に変わっていこう』という気持ちが強いんです」と語ってくれたのは、漫画家の雁須磨子さん。

40代のリアルな心情を描き、多くの女性の共感を呼んでいる意欲作『あした死ぬには、』の作者でもある雁さんに、自身の経験を語っていただきました。

「ちょっとねーオバチャンって! 聞こえてないの?」
「おばさん」と呼ばれて傷ついてしまう理由とは…(C)雁須磨子/太田出版
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変わることは悪いことではない。雁須磨子さんインタビュー

――『あした死ぬには、』では健康、仕事、人間関係など、40代女性が壁にぶつかり悩む様子が描かれています。かつての40代に比べて見た目も気持ちも若いけど、やっぱり加齢による影響も避けられなくなってくる…そんなリアルな姿が印象的です。

「若さについて自己認識と他己認識にズレがあるからこそ、余計に悩むのかもしれません。ただの40代というよりも、今の40代ならではの悩み。

それまで世代の女性たちはそこまで考えなかった『若い女子でありたい』みたいな気持ちや、『中身はそんなに変わってないのに』みたいな気持ちがある。もちろん健康のことを気にするとか、40代なりの分別は必要ですけど、大人になったからって、40代らしい考え方を持たなきゃいけないということはないと思うんですね」

●「おばさん」という言葉で傷ついてしまう理由

――作中、42歳になった主人公・多子(さわこ)の中学生時代の同級生・小宮塔子(こみやとうこ)が、パート先の飲食店で「オバチャン」と呼ばれ、ショックを受けるシーンがありました。なぜ「おばさん」「おばちゃん」と呼ばれると心がざわつくのでしょうか。

「『おばさん』という言葉自体は悪いものではないはずですが、現代の日本では、相手を傷つけたくないときには選ばない言葉。呼ばれるときの状況にもよると思いますが、傷つけようという意図が含まれていると感じます。

作中の塔子の場合だって、ていねいな頼みごとをするなら『店員さん』と呼びかけるはず。
90年代に『オバタリアン』という言葉がはやりましたが、当時、そう呼ばれる対象年齢だった女性はイヤだったでしょうね。
そうやって、“おばさん”という言葉のイメージを社会全体でつくってきたからこそ、呼ばれると傷ついてしまうのだと思います。

ただ一方で、今まで我慢していたものを、40代くらいから『これも私だ』と遠慮しなくなっていく様子が、ほかの人からは“おばさん仕草”のように映るといったことも起きているのかもしれません」

●遠慮しなくなった本来の自分が、周囲には「変わった」と映る

「また新しいけどどこかにいた私が来るんだ」
(C)雁須磨子/太田出版

――「おばさん」に変わったのではなく、我慢をやめて本来の自分が表に出てきたということですね。作中でも、「外にまた新しいけどどこかにいた私が来るんだ」というモノローグとともにヒロインが脱皮をするような描写があって、とても印象的でした。

「20代前半の多子が、母親から『上京して性格がキツくなった』と指摘され、『変わってない』と憤慨する場面があるのですが、このやりとり自体は実際に私に起こったことです。変わったといわれるけれど、もともとこういう性格だったのよ! と伝えたかった」

――本質が変化したわけではない…と。

「ただ、人に会うことで気づきが生まれて、本当に気持ちや生き方が変わったりすることもありますよね。
とくに、お子さんがいらっしゃると、いやおうなしに変わらないといけない面があると思います。たとえば、子どもがスポーツを始めたら、それに引きずられて外に出るようになったり」

――洋服なども、子育て中はデザイン性より、洗いやすい素材を優先…と変化せざるをえないですよね。

「そうやって自分の外のことで変わらなきゃいけないというのは、悪いことばっかりじゃなくて、いいこともあります。

たとえば、『あした死ぬには、』で塔子は多子よりも頭が柔軟なので、自分を変えることがすでにできる。そういうふうに描いているのは、塔子は子どもを育ててきた分、変化に対して柔軟にならざるを得なかったというのもある気がしているからです。

一方、ずっと独身で子どももいない主人公の多子は、性格もあるのでしょうが、変わることに対して保守的だし、意識しちゃう。だから、これから作中で悩ませたいと思っています。『変わる』ということは、本作のテーマのひとつです」

●40代はいちばん「変わろう」というモチベーションが高い年代

「そこをなんとかして本奈さんが変わらないと」
(C)雁須磨子/太田出版

――40代からの変化ですね。

「『積極的に変わっていこう!』という気持ちが強いのが40代だと感じます。自分も、不整脈が起こったりだとか、45歳くらいまでの間に体のことを含め、ものすごくいろんな急激な変化が起こって、それにゆっくり慣れていくという感じでした。

でも、根本的な精神や考え方は変わらない。だからこそ、『落ち込んでいても、しょうがない!』と思って、もういろんなことをやりきろうっていうポジティブな気持ちが沸いてきました。

よっぽどの支障がなければ、一度今までと違ったことをしてみても、いつでもやり直せる。変わったからといって、変わったあとの状態のままでずっといなければいけないわけじゃない。『あした死ぬには、』では、変わること、変わらないこと、そういった両面を描いていきたいです」

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【雁須磨子(かりすまこ)さん】

1994年に『

SWAYIN’ IN THE AIR

』(「蘭丸」/太田出版)にてデビュー。BLから青年誌、女性誌まで幅広く活躍し、読者の熱い支持を集めている。最新刊は『

あした死ぬには、

』(太田出版刊)第2巻