とにかく荷物が多い!双子を連れてひとりで移動するのは困難
次にお話を聞いたのは、本谷寛子さん(仮名・39歳)。
「生む前は、『おそろいの服を着せて、双子用ベビーカーで優雅にお散歩♪』なんていう図に憧れていましたが、実際は程遠い生活でした。1人が泣いたらもう1人も泣いて…と散歩もままならず、家にこもりがちな日々。自分自身もぼろぼろで、こんなはずじゃ…と常に思っていました」
●出かけるときは「えいっ」と気合が必要
本谷さんは、双子用ベビーカーではなく、1人用の普通のベビーカーを2台購入したそう。
「双子用は通れないところがあったり、迷惑がられることが多いと聞いていたので…。人手があるときは2台で、普段はベビーカー1台と抱っこひもで出かける生活でした」
とにかく荷物が多いのが多胎育児。
「私は地方に住んでいるので、クルマ移動が多くなんとかなりましたが、都会で1人で乳幼児を連れて移動するのは本当に大変だと思います。子供が幼稚園に入る頃までは、病気や検診で、どうしても母親ひとりで双子を連れて出かけないといけないことも。最近は子育てに配慮されている環境づくりが進んでいますが、多胎育児は想定すらされていないことが多いです。出かけるだけでも、かなりの覚悟をして『えいっ!』と気合いが必要でした」
昼夜問わず、よく泣く双子だったという本谷さんのお子さん。そのぶんしんどいことも多かったそうですが、成長するにつれ、思わずぐっとくるシーンも。
「幼稚園に入園したばかりのときは『行きたくない』と毎朝かなり泣いていましたが、しばらくすると、どちらかが泣いてもお互い励まし合って手を繋いで登園できるように。そんな姿を見ていると、双子でよかった! と心から思いました」
●悪意なく「不妊治療?」と聞かれて
育児の大変さ以外にも、双子の母親ならではの経験を何度もしたそう。それは「人に不妊治療かどうかを聞かれる」こと。
「『自然に授かったの?』『不妊治療とかしてた?』と、職場の人や友達によく聞かれます。悪気はないのでしょうが、そこまで親しくない人に聞かれるのはいい気はしませんでした。私の場合は初期の治療で授かったのですが、親しくない人にはあれこれ聞かれたくないので、『自然に』と答えています。本気で長期間不妊治療をがんばっていた方なら、余計に言いたくないと思います」
多胎育児には、周囲の手助けが不可欠
松村さんも本谷さんも、声をそろえて話すのは「多胎育児には周囲の手助けが不可欠」ということ。
「多児育児は、大人1人では物理的に不可能な場面が多々あるので、周囲の理解とサポートが不可欠です。双子の母親が1人で抱え込まず、周りに頼ってもいいんだと思える環境が整ってくれると嬉しいです」と松村さん。
また本谷さんも「私の場合は母や叔母が近くにいたので、よく様子を見に来てくれたり、ご飯をつくってきてくれたりと、協力してくれて本当に助かりました」と話します。
「周りに手を借りれる人がいないなかで双子を育てるのは、想像を絶する大変さ。身近にいないと大変さはわからなくて当たり前ですし、すべてのことに対応してほしいとか、手助けをしてほしいとは言いません。ただ、良心で少し手を貸してもらえたり、声をかけたりしてくれるだけで、本当に嬉しく、救われる母親はたくさんいると思います」
子育てはただでさえ大変なのに、多胎育児ならなおさらです。想像力を忘れず、困っている母親がいたら、できる範囲で声をかける、手助けする…。ちょっとした行動が、子育てしやすい社会をつくっていくのではないでしょうか。