『嫌われる勇気』の大ヒットで、日本でも浸透してきたアドラー心理学。アメリカではこのアドラー心理学が子育てにも活用されているといいます。
アドラー心理学をもとにしたアメリカの子育て本の翻訳プロジェクトを主宰する、カップル&ファミリー専門コーチの塚越悦子さんに取材し、具体的にどのようなものなのかを伺いました。
子どもをただほめるのではなく、勇気づける育て方を
塚越さんが『Redirecting Children’s Behavior』(日本語タイトル『自己肯定感を育む子育て(仮)』)という本に出合ったのは、アメリカ在住時、次男妊娠中のときでした。
「長男が1歳半というタイミングで下の子が生まれるということで、兄弟それぞれへの接し方のヒントを探しているときに、この本をテキストとして使用している子育てコースを見つけて夫婦で受講し、感銘を受けました」
いわゆる子育てマニュアルではなく、「『子どもにどのような大人になってもらいたいか?』」というビジョンに対する問いかけであり、子育てにおける哲学といってもいいような、大人のための行動指針」がつまっているという本書。
具体的にどのようなことを教えてくれるのか、紹介します。
●子どもの心を勇気づける
アドラー心理学は「ほめない」育児と言われます。ほめられてばかりいるせいで、そのためにがんばるようになり、目的をはきちがえてしまわないようにするため。
つまり、「ママがほめてくれるから、好きでもない絵を描く。本当は音楽が好きなのに」ということになりかねません。自分で選んで取り組むことを応援するような、心の勇気づけができれば、外からの評価に関係なく、本人がやりたいことに没頭することができます。
本書から具体的な例を挙げてみましょう。
そして、「アンジーがこの色を選んだ」ということを、友達や両親などのお客さんが訪れるたびに(アンジーに聞こえるように)話しました。自分が居間の壁の色を決めた! ということで、アンジーの自己肯定感が高まったようだとお母さんは感じています。
●子どもに責任感をもたせる
家族の一員として、なんらかの役割を与えて取り組ませることは非常に効果的だと、本書は語ります。
日本では親がなんでもやってしまうことがありますが、ゴミ捨て、洗濯物の取り込みなど、簡単なタスクに責任をもって取り組み、勇気づけていくと、子どもたちはその達成感を得ることができ、自己肯定感が高まります。
●セルフコントロールの重要性
だれしも感情が高まることはありますが、多くの場合、大人になるにつれ自分の感情をコントロールすることを覚えていきます。この感情のコントロールを教えることは、子どもが生きていくうえで一生使えるスキルを教えることになります。
欧米では、「タイムアウト(time out)」といって、子どもが癇癪を起したりしているときに自分の部屋などに送り、5歳なら5分というようなガイドラインにしたがって「ちょっと頭を冷やしなさい」と言うやり方があります。
しかし、自分の感情が高まっているとき、人にストップウォッチで落ち着くまでの時間を測ってもらうような状況では、リラックスできるでしょうか? 本書では、セルフコントロールを教えるやり方についても詳しく解説しています。
●兄弟関係をよくする育て方
そもそも塚越さんが本書を手にした最初の動機は、兄弟それぞれにどう接すればいいのかというヒントを得るため。
「お兄ちゃんだから~しなさい」「お兄ちゃんだから我慢して」「お兄ちゃんはしっかりしないと」などという言い方は、仲のいい兄弟関係にはつながりません。
本人は好きでお兄ちゃんになったわけではないし、下の子のお手本になるのが仕事ではありません。親は、兄弟それぞれを比較することなく、それぞれにあったやり方で愛情を伝えることが必要です。
●問題を解決できる子どもに育てるために
日本でも2020年より大学入試がガラッと変わるということで、体系的な知識のつめ込みではなく、問題を発見して自ら解決できるような子育てにシフトしたいという想いをもつ親が増えてきています。そんな方々にも、本書は役に立ちそうです。
『自己肯定感を育む子育て(仮)』は、2019年10月以降に全国書店で刊行予定とのこと。プロジェクトの進行状況はサウザンブックスの公式サイトより確認できます。気になる方はぜひチェックしてみてください。
<撮影・取材・文/ルミコ・ハーモニー>
【塚越悦子さん】
カップル&ファミリー専門コーチ。東京大学文学部ドイツ語ドイツ文学科卒業。モントレー国際大学大学院で行政学修士を取得後、国連勤務やJICAコンサルタントを経て現職。著書に
『国際結婚一年生』(主婦の友社刊)、翻訳書
『異性の心を上手に透視する方法』(プレジデント社刊)がある。現在、小学生の男子3人を子育て中。