きちんと知っておきたい婦人病のこと。症状と治療について、医師に伺いました。今回は、子宮・卵巣の病気について。

自覚症状が現れにくく検診受診率も低い現状
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自覚症状が現れにくく検診受診率も低い現状

「子宮や卵巣の病気は自覚症状が現れにくく、気づいたときには病気が進んでしまっていることも少なくありません」というのは、がん研有明病院の宇津木久仁子先生。

 だからこそ、定期的な検診が必要なのですが、婦人科の検診は受けにくいと感じる人も多く、受診率は若い世代ほど低いそうです。

「子宮や卵巣は、出産に関わる臓器。まず考えるべきはもちろん命を助けることですが、命さえ救えばいいというものではなく、後遺症の少ない治療を行うことや、妊娠できる力を残しておくことも必要になります。早期ならこれが可能です」

 不正出血やおりものの異常などの気になる症状があったらすぐ婦人科へ。「日頃から医療機関に関する情報を集め、評判を聞いておけば、あわてずにすむのではないでしょうか」。

患者数は増加傾向。20~30代の若い世代も要注意

おもな病気の種類

 子宮の病気はおもに6つ。「子宮筋腫」と「子宮内膜症」は若い世代に多く、出血量が増えるなど生理に異常が生じます。子宮がんには、子宮の入り口にできる「子宮頸がん」と奥にできる「子宮体がん」の2つが。後者は患者数が増加しており、前者も患者数は横ばいながら若い世代に急増中です。

 卵巣の病気は、卵巣内に腫瘍ができる「卵巣のう腫」と、排卵時の卵巣表面の傷が原因になると考えられる「卵巣がん」があり、晩婚化・少子化を受け、患者数が急増しています。

おもな病気の症状・検査・治療法について

●子宮筋腫:女性ホルモンで成長するこぶ。不妊や流産の原因にも

【症状】子宮にできた良性のこぶ。女性ホルモンの影響で大きくなると、不妊や流産の原因になることも。閉経すると自然に小さくなる。生理時の大量出血、激しい生理痛が主症状だが、自覚症状のない人も多い

【検査】問診、内診、超音波検査。しこりが確認された場合は腫瘍マーカー、CTスキャンやMRIなどの画像検査などを組み合わせて行う

【治療法】腫瘍が小さく自覚症状がなかったり、閉経が近い場合は、手術をせずに様子を見る。筋腫が原因で妊娠しない場合は摘出する。生理の出血量が貧血を起こすほど多かったり、生理痛がひどい場合は、筋腫または子宮を摘出

●子宮内膜症:子宮内膜がほかの場所へ飛び、生理痛や不妊症の原因に

【症状】子宮内膜がほかの場所にも発生する病気。子宮以外に発生した内膜も子宮内膜と同様に生理のときにはがれて出血するが、体外に排出する出口がないため、炎症や癒着を起こす。それが激しい生理痛や不妊症の原因となる

【検査】問診、内診、超音波検査やMRIの画像検査、腫瘍マーカーを組み合わせて行う。確定診断は、腹腔鏡検査で直接確認する必要がある

【治療法】痛みを抑える鎮痛剤や排卵を抑える低容量ピル、内膜の増殖を抑えるホルモン治療薬などの薬物療法がある。手術を行う場合は、開腹せず、内視鏡を見ながら癒着をはがしたり、内膜を取り除く腹腔鏡手術が主流

●子宮頸がん:初期なら円錐切除術で子宮を温存できる

【症状】子宮の入り口の子宮頸部の表面に発生。原因は性交で感染するヒト・パピローマウイルス(HPV)と考えられている。初期は自覚症状がなく、進行すると不正出血、下腹部痛、おりものの異常、性交痛などの症状が出る

【検査】がん検診では、子宮の入り口をこすって細胞を取り、顕微鏡で見る細胞診を行う。異常があれば組織診、超音波検査、CT、MRI検査を行う

【治療法】初期なら、円錐切除術やレーザー蒸散術を行い、子宮は温存する。進行状況に応じて子宮摘出手術を行い、リンパ節転移が疑われればリンパ節郭清術を行う

●子宮体がん:エストロゲンが原因。閉経後に発病することが多い

【症状】子宮体部の内膜に発生。エストロゲンが原因といわれ、閉経後の50~60代に多い。不正出血、下腹部痛、おりものに異常などの症状が出現。月経不順、不妊症、高血圧症や糖尿病の人も発病しやすい

【検査】子宮内膜を採取して細胞と組織に異常がないかを調べる細胞診や組織診を行う。内診・直腸診、子宮鏡検査などでがんの広がりを調べる

【治療法】子宮を摘出する単純子宮全摘出手術を行うのが基本。卵巣に転移しやすく、子宮と同時に卵巣、卵管も摘出することが多い。子宮を温存したい場合は、初期であればホルモン療法で厳重に管理しながら様子を見ることも

●卵巣のう腫:卵巣がんとの鑑別は難しいことも。手術後の病理検査で確定

【症状】卵巣内に分泌物や脂肪がたまって袋状の腫瘍ができる病気。多くは良性。初期に自覚症状はほとんどなく、進行してのう腫が肥大してくると、触って膨らみに気づいたり、下腹部痛、便秘、頻尿などが生じることがある

【検査】内診・直腸診、超音波検査で腫れがあればCT、MRI、腫瘍マーカーを行う。良性か悪性かは手術で摘出した組織の病理検査で確定

【治療法】のう腫が大きくなると、卵巣が根元からねじれて、激しい痛みを伴う「茎捻転」を起こす恐れがあるため摘出する。その方法には、

(1)のう腫だけを切除
(2)片側卵巣を切除
(3)片側の卵巣と卵管を切除

の3つがある

●卵巣がん:50歳以上に発生しやすい卵巣にできる悪性の腫瘍

【症状】卵巣にできた腫瘍のうち悪性のものをいう。原因は不明だが、排卵時に卵巣が傷つき、その傷からがん化するという説が有力。初期はまったく自覚症状がなく、かなり大きくなってから初めて腹部のはりなどの異常を感じるケースが多い

【検査】体の奥深くにあるため細胞診や組織診はできない。内診、直腸診、腫瘍マーカー、超音波、CT、MRIなどの検査を組み合わせる

【治療法】卵巣がんは、初期であっても両方の卵巣と子宮、リンパ節、卵管などを切除し、ごく初期以外は、術後は抗がん剤による化学療法を併用するのが基本

宇津木久仁子先生
宇津木久仁子先生

【宇津木久仁子先生】

がん研有明病院婦人科副部長。がん治療中の美容ケアを行うボランティア「帽子クラブ」を主宰。2009年にリンパ浮腫治療室を開設。著書に『

子宮がん・卵巣がんの治療法と術後の暮らし方

』(イカロス出版刊)などがある

【がん研有明病院 婦人科】

住所:東京都江東区有明3-8-31 TEL:03・3520・0111