住宅ローンは定年前に完済して、退職金は老後の蓄えとしてしっかり残すべき。一般的にはこのように言われています。しかし、教育費や家のリフォームなど、思わぬ出費で予定どおりに払い終えられなかった、というのもよくある話。
はたして、住宅ローンを残したまま定年後の生活がスタートしたらどのようなリスクがあるのでしょうか? ESSEでもおなじみのファイナンシャルプランナーで、家計再生コンサルタントの横山光昭さんが、そんなシニア夫婦の家計診断をしてくれました。

住宅ローンを残したまま、定年後の生活がスタート

住宅ローンを残したまま、定年後の生活がスタート

<高橋さん夫妻(仮名・千葉県)のプロフィール>

夫(63歳)、妻(61歳)のふたり暮らし。夫は定年後も継続雇用で働き続け、妻も週2回パートで働く。とはいえ、大金が手に入ったことで気が大きくなり、退職金を旅行や高級時計などにつぎ込んでしまった…という一面も。

<高橋さん夫妻の悩み>

退職金で住宅ローンを完済しようと考えていた高橋さん夫妻。しかし、定年前後の出費がかさみ、気づけば一括返済するゆとりはなし。夫は継続雇用、妻はパートで働いているが、住宅ローンの負担は重く、家計は赤字続き。貯蓄は目減りする一方で不安。年金生活がスタートしたらどうなってしまうのか…。今のうちに無理をしてでも、住宅ローンを完済すべきか悩んでいる。

<高橋さん夫妻の1か月の家計収支>

夫の月収(手取り)        ¥195,300
妻の月収(手取り)        ¥34,000
収入合計             ¥229,300
住居費              ¥87,000 ←Check1
食費               ¥48,000
電気料金             ¥8,000
水道料金             ¥4,500
ガス料金             ¥2,500
通信費(固定電話、携帯電話2台、プロバイダー)
                 ¥11,000
日用品費             ¥8,000
被服費(クリーニング代含む)   ¥5,000
レジャー・交際費         ¥14,000 ←Check2
クルマ費(自動車ローン含む)   ¥24,000 ←Check3
交通費              ¥2,000 ←Check3
医療費              ¥10,000
小遣い(夫)           ¥20,000
小遣い(妻)           ¥20,000
生命保険料(夫)         ¥6,600
生命保険料(妻)         ¥2,800
その他(NHK受信料、理美容など) ¥13,000
貯蓄               ¥0
支出合計             ¥286,400
収支              -¥57,100
ボーナス収入           ¥0
現在の貯蓄            ¥17,000,000

Check1:ローン返済計画が甘い

退職金で住宅ローンを一括返済するつもりだったが、夫婦旅行などごほうびの積み重ねで返済のゆとりがなくなった。このままだと70歳までローンが続くことに。さらに、ボーナス併用の返済計画を組んでおり、その金額が1回あたり24万円にも!

Check2:身の丈以上の出費が多い

老後を楽しみたいからと身の丈以上の生活をして出費が膨らむと、結局は苦しむことに。家計簿には出てこない旅行費や交際費などが、家計をピンチにしてしまいがち。

Check3:なにかと経費がかさむクルマ

さほどクルマに乗る機会はないのに、まだ残っている自動車ローン。そのうえ維持費も意外にかかるもの。最近は動かさないことによるトラブルや故障も多く、修理費も負担に。

横山さんが診断!まずは、繰り上げ返済を。仕事をするのも視野に

夫の退職金で完済するはずが、定年後まで残ってしまった住宅ローン。一括返済すると手元に残る貯蓄は約700万円と心細い状態です。
高橋さん夫妻におすすめなのは、繰り上げ返済を利用して、毎月の返済額を減らすという方法。

●住宅ローンの負担減は必須。乗らないクルマは手放し、固定費を賢く削りましょう

繰上げ返済には【1】「毎月の支払い額を変えずに返済期間を短縮する」、【2】「返済期間を変えずに、支払い額を減らす」という2種類があります。総支払額を減らせるのは【1】パターンですが、高橋さん夫妻は赤字脱出が先決。そこで、残債1000万円のうち、500万円を繰上げ返済し、月々の住宅ローンを5万8000円まで減らしました。そして、ボーナス払いを3万8000円に圧縮し、その分は子どもが援助してくれることに。
もし、現在住んでいるのが「夫婦ふたり暮らしには広すぎる一戸建て」という場合は、住み替えを検討するのも一案です。たとえば、都心の物件を売却し、郊外の割安な物件に買い替えれば、住居費を抑えられる可能性もあります。
また、さほど乗る機会はないのに手放せずにいたクルマを処分したところ、31万6000円で売却できました。ローンの残債は42万1310円でしたから、10万円ほどの負担は生じたものの、ローンを完済。毎月2万4000円の維持費も削減できることに。クルマのローンは住宅ローンよりも高金利。持っていても月に数回しか乗らないのであれば、必要なときだけレンタカーを借りたほうがお得なケースが大半を占めます。
さらに、多すぎた「自分へのごほうび」も見直しました。そもそも、住宅ローンが残ってしまったのは、退職金を計画的に使えなかったのが原因。まとまったお金を手にしたことで気が大きくなり、国内や海外への旅行、高価な時計やバッグ、孫へのプレゼントなどに、楽しく使ってしまったのです。月々の金額はさほど多くありませんでしたが、家計簿に表れない「特別費」が老後資金を目減りさせるケースも多いので要注意。予算を決めて楽しみましょう。

●元気なうちは、仕事をして収入を得ることだってできる!

こうした節約を重ねても、じつはまだ家計は赤字。黒字転換に大きな役割を果たしたのは妻のパートです。これまでは週2回ペースでしたが、勤務先にシフトを増やしてもらえないかと打診され、週4日勤務に。仕事で頼りにされることは、生きがいにもつながります。健康で働けるうちは働き、収入を増やしながら楽しむのも賢い選択です。

●横山さんのアドバイスのもと、家計改善をした結果

住居費        ¥58,000(-¥29,000)
レジャー・交際費   ¥10,000(-¥4,000)
クルマ費       ¥0(-¥24,000)
交通費        ¥6,000(+¥4,000)
→合計5万3000円を削減

さらに、妻の手取り月収が7万3000円にUP!

赤字脱出!月々3万4900円の黒字化に成功!

もし、黒字分をすべて貯蓄に回したら…3万4900円×12か月=41万8800円年間40万円以上貯金可能に。
住宅ローンの繰り上げ返済により、貯蓄残高は1200万円に。しかし、妻がパートを増やし、収入増。生活費も圧縮できたため、年金生活でも貯蓄からの補てん額は抑えられることになります。

今回紹介したシニア夫婦のケースのほかに、ムック

『定年後の暮らしとお金の基礎知識2018』

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