仕事や学校の事情で食事やおやつの時間が家族バラバラに、というのはよくある話。自分の都合で家族が各々使うので、片付かないままキッチンを放置…そんな家庭も多いでしょう。クローズドキッチンなら気にしないでスルーもできそうですが、困るのはダイニングからキッチンが見えるレイアウトの場合。「これではダイニングでくつろぐこともできません。そこで提案したいのが、キッチンとダイニングがつながったり、閉じたりするのを自在にできる仕組みづくりです」そう語るのは、建築家の田中ナオミさん。どんなキッチンプランにすれば落ち着きのあるキッチンダイニングをつくれるでしょう。田中さんが設計した事例をもとに説明してもらいました。家づくりの参考に。
すべての画像を見る(全4枚)キッチンとダイニングの間に、曖昧な目隠しとなる棚を設置
物が出ているキッチンを視界から見えないようにと、キッチンとダイニングを隔離したプランにしてしまうのは考えもの。そうすると、おもに以下のようなデメリットが発生します。
- ダイニングとのアクセスが悪く、配膳に手間がかかる
- キッチンとダイニングの距離感があると調理中のコミュニケーションがとりにくい
- うっかりするとキッチンの荒れた状態が慢性化する危険がある
そこで、この事例では、キッチンとダイニングの境界を仕切る大きな棚を設けてみました。棚には背板を設けずスケルトンに。
上の写真ではダイニングの後ろに飾り棚があるようにみえますが、その向こう側はキッチンです。意識的に物を置いていない場所は、カウンターの役目も果たします。
この方法なら、棚に置く物の量や場所次第で、自在にキッチンとダイニングを程よくつなげた空間にしたり、閉じた空間にすることができるのです。
つながり方は物の量でコントロール
空間のつながり方は物の量やどこに置くかでコントロールできます。
事例の家のご家族は、本や趣味のいい雑貨をたくさん持っていました。そこでキッチンとの仕切り棚には、本や雑貨を自由におけるサイズを導き出し、大工工事で造作しています。キッチン入口に向かって左には本棚を設けています。このことでキッチン側の棚に本を置けば、自然な流れのなかで本棚の延長にも見えるというわけです。
この方法のメリット
- 声や気配は伝わるので、ほど良いコミュニケーションが得られる
- 本を置けば本棚の延長に、雑貨を置けば飾り棚として使える仕切りになる
- 反対に物の量を減らせば、ダイニングと一体化できる
- 棚とダイニングテーブルの距離を変えれば、棚の煩雑さも気にならない
- キッチン内からは、ダイニングの様子がよく分かる
上記のようなメリットを得られ、人の都合で空間の関係性を自由に調整できるのです。
キッチン内にも、小さなカウンターを設ける
キッチンにはダイニング側にキッチン本体を、背面には調理器具や食器の収納スペースを配置しました。棚がスケルトンなのでダイニング側からもほど良く光が入ります。
またキッチンの端(写真手前右)には、小さなカウンターをつくり、忙しいときや来客時には、ここでササっと食事などを済ませられるよう配慮しました。
●教えてくれた人/田中ナオミ
一級建築士、NPO法人家づくりの会会員、一般社団法人住宅医協会認定住宅医。女子美術短期大学造形科卒業。エヌ建築デザイン事務所、藍設計室を経て1999年田中ナオミアトリエ一級建築士事務所を設立。著書に『片づく家のアイデア図鑑 快適な住まいをつくる収納と暮らしの工夫』(エクスナレッジ)、『住宅医のリフォーム読本』(彰国社)などがある