新しい住まいのキッチンはオリジナルにしたい。そう考えてみたものの、予算が理由で断念…。よくある事態ですが、建築家の田中ナオミさんによると「既成のシステムキッチンを上手に取り入れることで、自分らしいオリジナル風のキッチンをつくることができます」。田中さんの提案する、自分だけのキッチンのつくり方を紹介します。

土間のキッチン
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目次:

既成のシステムキッチンを周りの仕上げと合わせるシンプルデザインのキッチンを選んで、周りの質感となじませる

既成のシステムキッチンを周りの仕上げと合わせる

キッチンの前面を壁の素材と同じに仕上げた空間

田中ナオミさんは、できるだけ「オリジナルの部品」で住宅を構成したいと思っているそうです。

理由は、自然素材を多用した、手で創られる住宅には「既製品(=システムキッチン)」の質感が馴染みにくく、室内の景色に違和感が出ることやサイズの融通が利きにくいことなどから。

しかし既製品には、既製品ならではのメリットがあります。
メーカーの開発担当者やデザイナーが消費者のニーズをリサーチし、何度もテストを重ねたうえで製品化されたシステムキッチンが優秀なのは当然ともいえます。

田中さんによれば、そんなシステムキッチンを上手に利用すれば、オリジナルで制作するよりも安価に納めることも可能だとのこと。
一方で不都合なのは、デザインが住宅の空間に合致しないので、そこだけ温度感が違ってしまうということ。

そんなときは、以下のような方法でその異質な存在感を消すことができるそうです。

  • キッチン本体はシステムキッチンを使い、写真のように背面の食器棚を造作する
  • ダイニング側は、キッチンを覆うように壁と同じ材料で仕上げる

こうすることで既製品でも建築空間の中に違和感なく共存し、「精度の高い部品」として利用することができるそうです。

システムキッチンの背面に造作した棚

写真の左手がダイニング側。既成のシステムキッチンの端まで壁を巡らせているので、キッチン本体は見えません。
また右手は造作した食器棚。
キッチンの素材感が見えなくなることで、空間全体に統一感が生まれています。

シンプルデザインのキッチンを選んで、周りの質感となじませる

土間キッチンの全景

田中さんは、「既製品を置くだけ」という割り切り方をするのもアリ、だといいます。
冷蔵庫やテレビのように、システムキッチンも置いただけだとオリジナルっぽく見えないように感じますが、空間全体のバランスを考慮すれば十分にオリジナルっぽく見えてくるそうです。
そのためには、できるだけシンプルで主張の少ないデザインの既製品を選ぶこと。

土間に置かれたシステムキッチン

こちらの住宅では1階のキッチンとダイニングが土間で仕上げられています。人も犬も土足のままで暮らす空間なのです。
玄関から入ってそのままダイニングへ。土間には自転車も置かれています。

こんな空間のキッチンは、土間に「ただ置いただけ」という感じのデザインにしたかった、と田中さん。
土間と木、漆喰で仕上げられた空間に、シンプルデザインのシステムキッチンがちょうどいいバランスで収まっています。

キッチンの面材が土間の色味と相まって、まるでオリジナルキッチンのように見えるのです。

ちなみに、土間には調理中にこぼれた食材や食べこぼしなども、ホウキでササッと掃き出せるというメリットが。そのうえ水洗いが可能なので、デッキブラシでゴシゴシ掃除もできます。これならキッチン周りをより清潔に保てそうです。

キッチンやダイニングが土間だと、冬は寒いんじゃないの?と思う人もご安心を。
土間下には地中熱を利用した床下暖房を入れているので、なかなか快適な温度が得られるそうです。

完璧なオリジナルキッチンを目指さなくても、田中さんの提案するこんな方法なら、手軽にオリジナル風のキッチンが手に入れられそうですね。

監修/田中ナオミ(田中ナオミアトリエ)
画像提供/田中ナオミ(上から2、3番目)、撮影/石井アトリエ(1、4、5番目)