1年半くらい土地探しをしたというY さん夫妻が購入したのは、約15坪の細長い敷地。あまりにコンパクトで買い手がつかず、ずっと売れ残っていたそうです。「大きな家は望んでいなかったんです」という夫妻がその土地に建てたのは、シンプルであたたかみある木の箱のような家。その箱の中には、Yさん夫妻が希望した個性豊かな空間が広がっています。
すべての画像を見る(全10枚)身の丈に合った家をつくりたいから、15坪の敷地でもOK
Yさん夫妻は東京・北区に15坪ほどの狭小敷地を購入しました。「大きな家は望んでいなくて。小屋とか納屋をイメージしました。庶民的で、いい感じに枯れていく家が欲しかったんです」。
夫妻は、この理想とする家のイメージを共有してくれるのでは、と感じた、あいかわさとう建築設計事務所の相川直子さんと佐藤勤さんに設計を依頼することに。
外観は焼杉板張りの長方形の建物で、なんとなく納屋のような雰囲気。
内部は広がりを得るため建具を開け放てば一室空間になります。各スペースにつながりをもたせているのがポイント。
1階は玄関を入ると右手にデザイン関係の仕事をする夫の図工室があり、左手には居間と台所が配置されました。
1階玄関ドアの内側は無垢の杉板張りに。写真左の手前のドアはトイレ。このドアは夫が以前古道具屋から購入した建具で、「いつか使いたいと思って取っておいた」ものとのこと。
“昭和の茶の間スタイル”でフレキシブルに空間を活用
Y邸で特徴的なのは、やはり、土間とつながるちゃぶ台のある居間ではないでしょうか。
「『おかえり』『ただいま』『いってらっしゃい』と声を掛け合う昭和の茶の間のスタイルです」(夫)。
玄関土間から居間へは段差があり、「そこの段差、タコ社長が寅さんの家に来たときに座っているところみたいでしょ(笑)」とも。
そして、居間の奥にはモルタル土間の台所が続きます。
L字型に配されたキッチンは、テラゾーの天板とラワン合板で造作されていて、どこか懐かしい雰囲気。珪藻土の壁を照らすシャルロット・ペリアンのランプがなんともお洒落。
端から端まで見通せる一室空間ですが、居間と台所の間の袖壁が適度に視線や光をコントロール。
また、居間と玄関は襖で仕切ることも可能なので、閉めれば落ち着きが得られます。ちなみにこちらのモダンな襖には、東京松屋に特注した手漉き和紙を使っています。
それに加え、ちゃぶ台スタイルで便利なのはフレキシブルに空間を広く使えること。さらに居間の畳下は収納として活用しているそうです。
経年変化が楽しめる素材で、時を経るほどに愛着を
室内は珪藻土や杉板など経年変化が味わえる素材で仕上げられ、レトロな家具や照明器具などとも調和しています。
2階は天井高を抑えた1階に対して、2.9mと天井を高く取り、全体をオープンな板の間に。ここは寝室として利用しています。
仕上げには自然な質感と経年変化が楽しめる素材を厳選することで、時を経るほど愛着の湧く家を目指しました。
2階の床は幅広の杉板を長さを揃えて張る「すだれ張り」にしているので、より広がりを感じさせます。
水まわりも木に包まれた温かみあふれる空間。この家に合うよう、洗面台や収納スペースも木で造作しています。ちなみに洗面台の上の鏡は柳宗理のウォールミラー。
約15坪の敷地を有効活用し、木の香りいっぱいの思い通りの家を実現した夫妻。「本当に欲しいものだけがあればいいんです。家族が増えた場合には、そのときに空間を仕切ったり、必要なものは揃えていけばいいと思っています」と夫。
フレキシブルな居間と余裕のある2階は、家族やライフスタイルの変化にも柔軟に対応してくれそうです。
30代の夫婦ならではの、モダンさもほどよくプラスされた昭和レトロな住まいです。
設計/あいかわさとう建築設計事務所
取材/松浦美紀
撮影/大沢誠一
情報は「住まいの設計2020年4月号」掲載時のものです。