学生時代から器の魅力にはまっていた妻は、家を建てるなら器屋をやりたいという夢をもっていました。会社員の夫も賛同し、妻のその夢を後押し。飲食店などが建ち並ぶ交通量の多い区域で敷地を購入し、乘松さん夫妻の理想の家づくりがスタートしました。
すべての画像を見る(全20枚)器が映える、コンクリートのシンプルな店内
夫の通勤にも便利な、妻の実家近くで土地を探した乘松さん夫妻。店を出すことを考慮し購入したのは、愛知・安城市内の交通量の多い区域で、幅16mの北側道路に面した敷地でした。夫妻が店舗併用住宅としてイメージしていたのは、「土間が広くて、囲炉裏や小上がりがあるような昔ながらの家」。
設計の依頼を受けた中渡瀬拡司さんは、まず敷地内における建物の形として、住宅と店舗の形状を三角形にし、それをずらして配置しました。その2つの三角形から成る建物は、1階はコンクリート打ち放し、2階はレッドシダー羽目板張りに。異素材の組み合わせが目を引く外観です。
お店はどこから入るかというと…。2階の張り出した部分が、奥の店舗へのアプローチになっており、通り土間がその先を導いてくれます。お店はコンクリート、ガラス、木、緑に囲まれ、味わいのある器が映える空間。
「店舗のオープンな空間をつくるにはRC造が向いていますし、オリジナルの木製建具と組み合わせることで、それぞれの素材感も生きてきます」と中渡瀬さん。
益子焼などの毎日使いたくなる、温もりのある器がゆったりと並んでいるのが印象的です。そして2つの三角形の間には、通り土間と共有スペースとなる和室が配置されています。
その通り土間が店舗と住居を緩やかに分け、その先は街に向かって開いているのです。
和室は、器選びの合間に休憩するスペースとしても利用できるそう。和を感じさせる季節ごとのディスプレイも空間に味わいを添えます。
後庭の緑も取り込んで、ホッと和める和室です。
半パブリック空間の土間のダイニングキッチン
住宅側の玄関を開けると、土間のダイニングキッチンが広がります。
1階の住宅部分に配されたダイニングキッチンも、街に対して開かれています。
お店を訪れた人が、暮らしを想像しながら器を選べるような半パブリック空間でもあります。ガラス越しにチラリと内部が見えます。
ダイニングはガラス張りだから、前庭の緑を眺めながら食事ができます。このような雰囲気なので、カフェと間違える人もいるそうです。
「料理も食事も靴を履いたまま。買い物袋を持ってそのままキッチンに行けますし、キッチンの床ってけっこう汚れますが、モルタルだから気になりません」と妻。
土間には床暖房を採用し、冬の寒さにも備えています。キッチンの多彩な素材使いも特徴的です。
キッチンカウンターはオーク材で製作し、シンクは昔ながらの人研ぎ仕上げに。床は、一部一段高くしてチークフローリングを張り、コンパクトな朝食スペースをつくりました。
独特の風情があって魅力にあふれたキッチンになりました。
2階のプライベート空間は大きなワンルームに
晩ご飯と宿題が終わると、家族はプライベート空間である2階へ移動。
1階に対し2階は外には閉じた空間で、内部はどこにいても家族の気配が感じられる大きなワンルーム仕様です。2階リビングはリラックスできるよう、自然素材で統一。床にはオークフローリング、壁と天井には漆喰を採用し、表しの柱も木で、温かみあふれる空間となっています。
リビングは、床の段差や腰壁でさりげなく空間が分けられているのもポイント。気兼ねなく、それぞれが好きなことをして自由に過ごすことができます。
広いデッキテラスは子どもたちの遊び場にもなり、リビングに開放感を与えてくれます。プライバシーが守られている点でも安心ですね。そして、ぜひとも紹介したいのが機能的な子ども室。3人姉弟のためのベッドが壁際に3つ並びます。
オープンだけど各自のスペースもきちんと確保され、ベッド下部は本棚や布団などの収納になっているんです。
主寝室の上には、子ども室とリビングを見下ろせる広いロフトも。トップライトから自然光も入るので、子どもたちの恰好の遊び場に。
ロフトへは互い違いの階段を使って上ります。
「上ったり下りたりできるいろんな場所があるので、動き回る元気な子どもたちには最適ですね(笑)」(夫)。
ロフトの下は主寝室。高さを抑えた天井により、落ち着いた雰囲気となっています。とてもバランスの取れた住まいとお店。どこもかしこもリラックスできるのは、素材によるところも大きいでしょう。
きっと、3年、5年、10年と、経年変化によって味わいが増していくことは間違いありません。庭や街に馴染み、より素敵な佇まいとなることが想像できる住まいです。
設計/中渡瀬拡司(CO2WORKS一級建築士事務所)
撮影/桑田瑞穂
※情報は「住まいの設計2016年9月号」取材時のものです