東京都町田市にある85㎡のスタイリッシュな住まいで暮らす、64歳のおひとりさまYさん。定年を迎えた矢先に妻が亡くなってから、ひとりでの生活が始まりました。茫然自失の父に、息子であり設計事務所マーチアンドストアを主宰する除村千春さんはリノベーションを提案。新築時に約3000万円で購入して家族と暮らした3LDK を、工事費780万円(設計料別)をかけて思い切って一新し、前向きな気持ちで新たな暮らしを送っています。

目次:

山小屋のようなリゾート感のあるLDK自然光が届くオープンな水回り外からつながる多目的な土間空間

山小屋のようなリゾート感のあるLDK

珪藻土とワラスサ入りの左官壁
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85㎡強の3LDKは「寂しくない家」をテーマにして、パーティションで仕切ったようなワンルームに姿を変えました。

居室、水回り、寝室という3つの要素にざっくり仕切り、さらに全体をひとつのフローリングでつなぐことで、一体感と安心感を演出しています。

ジャーマンオークの床

明るく開放的なリビングは、木の床、珪藻土とワラスサ入りの左官壁がすがすがしい雰囲気。テレビ台は余った床材を利用して製作しており、ソファは合羽橋洋家具店、壁面収納はIKEAで購入したものです。

木で囲われたダイニングキッチン

昔からダイニングで新聞を読んでくつろぐ習慣をもつ父のために、ダイニングに「囲われ感」を演出。

さらに、山が好きで信州に住むことも考えたとのことで、古材風の味があるジャーマンオークの床材をダイニングの壁に立ち上げ、天井まで連続させることで、木に囲まれるようなリゾート感をもたらしました。

冬はキッチンとダイニングとの間のガラス戸を閉めれば、暖房効率がアップ。また、キッチンを囲む構造用合板には2色のラインをデザインしました。

「緊張感のあるアクセントをつけたら面白いんじゃないかと」と千春さん。遊び心が楽しい空間になりました。

木やタイルで素材感豊富

木の質感をたっぷり感じられるダイニングは山小屋風になりすぎず、ほどよい木の配分がなされています。

そこに合わせたのは白いタイル。リビングダイニングと水回りを分けている壁を、一面メトロタイル貼りにしました。

壁厚を利用して収納も設置しています。

自然光が届くオープンな水回り

オープンな水回り

室内窓からたっぷりの光が注ぐ洗面室。

木や左官とは異なるタイルの質感が、広い空間にメリハリをつけています。

洗濯機も洗面台もオープンにし、隠しすぎず出しすぎず、ほどよい生活感をキープ。

サニタリーとキッチンを仕切るタイル壁

水回り前の廊下から玄関ホールを眺めると、螺旋を描いた土間が奥の寝室までつながっています。

北側の土間と南側のLDKに窓があるため、光と風が南北を通り抜ける空間に。

外からつながる多目的な土間空間

多目的な土間空間

85平米をひとりで使い切るプランは玄関もゆったり。玄関、ホールという区分を取り払い、多目的な土間空間をつくりました。

大型ミラーはシボネで購入したもの。

モルタル金ゴテ仕上げ+防塵クリア塗装の土間は、螺旋を描きながら寝室のある奥のスペースへと続きます。

外の延長として使う土間

毎朝5kmのウォーキング、スキーやゴルフも楽しむアウトドア派のYさんは、この広い土間を外の延長として活用。

スチールのチェストはジャーナルスタンダードファニチャーのオリジナルです。

土間とつながったオープンな寝室

土間の先は仕切りのないオープンな寝室。シャーベットトーンの家形パーティションが優しくベッドを囲みます。収納はつくり込まず、スチールラックにホームセンターで見つけたボックスを組み合わせました。

かつて家族と暮らした3LDKは、贅沢なシングル仕様に一新。自然素材の質感も風の流れも心地いい空間は、丸ごと自分だけのものに。

「前は家の中にいたくなかったのに、今は家にいる時間が長くなった。ゆっくり本を読んだり、音楽を聴いたり」というYさん。息子に背中を押されて踏み切ったリノベーションには、気持ちを前向きにする確かな力があったようです。

設計/除村千春(MARCH AND STORE)
撮影/飯貝拓司
※情報は「リライフプラスVol.15」時のものです