愛猫のサバ(オス/5歳)が、中尾家の一員になったのはひょんな事から。数年前、建設会社を営む中尾さんの会社の倉庫で、野良猫が子猫を4匹産みました。夫妻は子猫の里親探しをしましたが、最後の1匹は行き先が決まりません。そこでその1匹を、当時住んでいた賃貸住宅で飼うことにしたのです。ここから中尾さん夫妻の家づくり計画が始まりました。
タテにヨコにキャットウォークを張り巡らせて…
「サバがいなかったら、今でも賃貸のままだったかも。家づくりのいいきっかけになりました」と語る夫。
夫妻は、サバがのびのびと暮らせる家を望みました。猫が縦横無尽に動き回れるように、家じゅうにキャットウォークを張り巡らせました。
すべての画像を見る(全27枚)吹き抜けによって1・2階がワンルームのようにつながっているので、大空間をぐるぐると回遊できるのです。
2階まで吹き抜けたリビングには様々な長さのキャットウォークが設置されており、梁の上も猫たちの通り道に。夫が座っているのは猫用に設けられたロフトで、窓から通りを眺められる気持ちのいい場所。
「人間もひなたぼっこができますよ」(夫)。
2階も中庭に面して大きな窓を設けています。右手にはオープンな書斎が。書斎のデスクも棚もキャットウォークになっています。
2階の廊下はグレーチングを採用。
視線が抜けるので、1階からも2階からもお互いの気配が伝わります。サバと弟分のウリ(オス/3歳半)は、キャットウォークで追いかけっこをしたり仲よくお昼寝したりしているそう。
2匹のそんな姿に、中尾さん夫妻は毎日癒やされているといいます。動きを見ているだけで飽きないですね。
中庭を囲う居室は光と風が満ちわたる
中尾さんの家の敷地があるのは、閑静な住宅地のT字路の突き当たりです。
建築家の岸本貴信さんは、道路から1.5mほど高くなっていた敷地を利用して中庭を設けることを提案。
中庭を道路との緩衝地帯としつつ、テラス部分をオープンにして風の抜けを確保しました。プライバシーは外壁によって守られています。駐車スペースの植栽は、そら植物園が担当。
アガペ、ユッカロストラータ、ローズマリーなどを配し、スタイリッシュなガーデンとなっています。内部は、中庭を囲んで各居室が配されている形です。1・2階とも中庭に面してオープンなので、開放感は抜群です。
ウッドデッキの中庭は窓を開けると室内と連続します。視線を気にせず、バーベキューを楽しむこともできますね。
リビングとダイニングの間に配されたキッチンは、アイランドスタイル。
明るい中庭側に向かって作業ができるなんて気持ちいいでしょうね。ちなみに正面奥はパントリーで、そこに冷蔵庫も収納しているそうですよ。
足場板で製作したテーブルを設置したダイニング。
中尾邸では蓄熱暖房機「ユニデール」を採用しており、冬でも土間の冷たさはあまり気にならないといいます。南に向いていることもあり、中庭から光も十分に差し込みます。
中庭を見て、何かを思うウリ。
ウリはこの家が完成してからやって来ました。
様々な素材の採用で、快適さを追及
建設会社を営む中尾さん夫妻が建てたこの家は、会社のショールームも兼ねています。中庭に面したダイニングはガラス張りで、まさに“ショールーム”。要所要所に合った様々な素材を採用し、快適さを実証しているんですよ。
訪れた人は素材を体感できます。造作のキッチンの素材は、独特の質感を持つ左官材「モールテックス」を使用。「熱にも水にも強く、お手入れもラクです」(妻)
ダイニングとキッチンの床はモルタル仕上げの土間に。「掃除がラクですね。夏は冷たくて気持ちいいから猫たちは床にゴロリ。いいことだらけですが、食器を落とすと確実に割れます(笑)」と妻。
モルタルの土間は、夏涼しいだけでなく、冬は日が当たって蓄熱するからほんのり暖かいんです。「ボクたちもお気に入り!」(ウリ?)。
キッチンの奥のリビングはダイニングから見えないように配されており、床材をオークのヘリンボーン張りに替えることでプライベート感を演出。
「ここからはこだわりの水回りと2階個室だよ!」
猫の爪とぎにも使われるサイザル麻を敷いた階段を上ると、2階は中庭の吹き抜けをロの字に囲む回遊空間となっています。
右側に見えるのが寝室。
左側の扉か寝室を通り抜けると2階デッキに出られます。猫たちが外気に触れられるデッキテラスです。ゲストルームになったり猫の遊び場になったりするスペース。寄木張りの床がおしゃれですね。
1階洗面室から浴室とウッドデッキを張った物干し場を見たところ。洗面室の床は、天然素材のサイザル麻の採用でさらりとした感触。
置き型の鋳物ホーロー浴槽を設置した浴室は、ガラス張りなので明るく開放的。お湯を張っていると猫たちは浴槽の縁に乗ってお風呂番をしたり、浴槽につかっていると天窓からのぞき見することもあるそうです。
微笑ましい光景ですね。
浴室からつながる腰高の白いタイル貼りの壁にはダークグレーの目地を採用。黒い縁が空間を引き締めます。
猫用トイレは階段下を利用して人間用トイレの中に設置。トイレに流せるタイプの砂なら処理が簡単で、臭いも気になりません。
ウリはタンクの水を飲むのが好きで、水を流すとすかさず駆けつけるそうです。
猫が自由に行き来できる猫用ドアは、ドイツ製の「キャットメイト」を使用。ドアの上に描かれたイラストもキュートですね。
吹き抜けによってできた大空間でサバとウリの2匹の猫が縦横無尽に動き回る中尾邸。人以上に猫ちゃんにとって暮らしやすい家かもしれませんね。
設計/岸本貴信(一級建築士事務所CONTAINER DESIGN)
撮影/西岡 潔
※情報は「住まいの設計2018年3-4月号」取材時のものです。